最近気になる用語 6
クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)

   原虫の中でも小さい(直径5ミクロン)塩素耐性単細胞原虫であって、もともと牛に下痢を 起こす原因虫として知られ、人畜腸内で無性・有性生殖し、呼吸器・胆嚢を侵す。有性生殖の場合、堅い殻をもつ オーシスト(嚢包体)という卵形物を生じるが、大部分は腸管より体外に排出される。この殻は一重だが成分の異なる層が あり、水道水中の塩素の侵入を防いでいる。耐塩素強度は大腸菌に比しはるかに強大とされている。感染すると3日~6日で 腹痛、激しい水溶性下痢症となり、さらに3~7日続き、嘔吐・発熱を伴うこともある。数週間は患者の便から オーシストが排出される。感染しても健常者は体内増殖せず自然治癒するが、免疫不全患者、治療中患者などは激しい脱水で 死亡した例(米国)もある。対策としては、厚生省で「水道におけるクリプトスポリジウム等病原性微生物対策検討会」を 97年8月に設置し、関係各省庁友連絡会を設け、次の対策を講じつつある。 ①水源等の調査、水源保全、排出源対策強化 ②浄水処理の徹底(浄水場ろ過池出口の水の濁度を0.1度以下にし沈殿させ濁りを判断する) ③生食用野菜果実栽培の衛生的水の使用 ④ミネラルウォーターの殺菌方法 ⑤ビン詰飲料水の衛生規範策定 ⑥地下水大量使用の食品製造施設の対応策 ⑦治療対策、発生時対策 ⑧普及啓発・情報提供強化等 である。
     しかし、感染した場合の治療法は検討中で、目下予防的に水の沸騰か免疫力に頼る程度である。
     現在まで当原虫による発症例は、 ①米国で、飲料水による集団下痢症者40万人、入院患者4400人、死者69人をはじめ、アップルジュース 、チキンサラダの疑いによる事故 ②英国南西部で89年8千人、94年4.4千人、95年5.7千人(生牛乳の疑い) ③日本では94年、埼玉県で水道水から住民の63%、8705人が発症、1ヶ月程で沈静化し幸いに死者は 出なかったが、各地(青森・神奈川等)で散発的に患者がみられた などである。
   食品を媒介とする原虫による疾患(下痢症)の発生はクリプトスポリジウムのほか、ジアルジア (俗名、旅行者下痢症)、サイクロスポーラ症、赤痢アメーバ症の感染が報告されている。

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