非常に強い毒性をもつ有機塩素化合物で,ポリ塩化ジベンゾダイオキシンの略称.異性体が70種類以上あるなかで,
2-3-7-8四塩化ジベンゾダイオキシン(TCDD)は史上最強の毒物といわれる.極めて安定した物質で,水に溶けにくい
性質を持つ.毒性は皮膚障害,内臓障害,発がん性,催奇性,と多様かつ強力である.
ベトナム戦争当時「枯葉作戦」として,アメリカ軍がジャングルに散布した除草剤の中にはダイオキシンが含まれて
いて,解放後のベトナムでは,これが原因と思われる重篤な胎児の奇形が数多く報告されている.
我が国では1997年に入って,環境ホルモンの一種としてダイオキシンに対する一般の関心が急激に高まった.現在
環境庁は約70種の化学物質を指定し,98年6月には300種を調査対象として新たに指定しているが,その中の最右翼
がダイオキシンである.これまでダイオキシンの危険性は,ある一定量以上を体内に取り入れたとき発生すると思われ
ていたが,それが超微量,体内に入っただけで,長期間体内に残留し,やがて生殖機能に異常を引き起こすことがわか
った.さらに怖いのが侵入された生体には当面何の異常も発生しないのに,胎児あるいは乳児に伝わって20年,30年後の
生殖能力がないという,人類を滅亡に追い込むような作用があることである.
かねてから警告されていたゴミ焼却によるダイオキシンの発生は,1997(平成9)年に厚生省の調査結果から耳目を
集めた.この時点で具体的な施設名は伏せられていたが,市民団体「止めよう―ダイオキシン汚染関東ネットワーク」
の独自調査が発表され,厚生省も公表を余儀なくされた.9月には文部省が全国の学校のゴミ焼却炉を全廃することを
決めるなど,ゴミを燃やして処理する行為そのものが問い直されることとなった.また環境庁は12月,大気汚染防止
法の指定物質にダイオキシンを加え,焼却炉のばいじん規制も前倒しを決めた.対策としては燃焼温度を900℃より下
げない様なゴミの燃焼方式の改善に加えて,ゴミの徹底した分別が必要で,特に塩ビ製品を焼却に回さないことである.
生協や大手スーパーも食品の包装に使用するラップを塩化ビニリデンからポリオレフィン系に切り替えるなどして
いる.ドイツでは建築資材でも電線や配水管,床材などから塩ビを追放する試みがある.取り壊しのときには分別できても
火災では燃えてしまうからである.
WHOは98年5月ダイオキシンの環境ホルモンとしての観点も加えてリスク評価を強化,これまで体重1kg当たり
10ピコグラムだった耐容1日摂取量を1~4ピコグラムと決めた.
ダイオキシンから身を守るには,消費生活の見直しが不可欠であり,地球温暖化現象,オゾンホールなどと共に
国家的,世界規模的での研究や対策が必要である.
(現代用語の基礎知識1999 自由国民社より抜粋)
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