最近気になる用語 35
一類・二類・三類感染症の概要
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
当時の記事をそのまま掲載していますので、古い内容や当会の専門分野とは無関係の内容もあります。
また、お問い合わせに対しては答えられませんのでご了承下さい。 |
(1)一類感染症
①エボラ出血熱
エボラウイルスの感染により、多臓器が侵され、出血傾向を示す。特異的な治療法はなく、
死亡率が高い。患者の血液、体液の接触により感染するが、手術用手袋等による接触感染予防により
感染拡大を予防できる。1995年にザイールで流行があった。対症療法以外な治療法はなく、死亡率が高い。
②クリミア・コンゴ出血熱
クリミア・コンゴ出血熱ウイルスによる出血傾向を示す感染症。ウイルスを保有した成熟ダニの
刺咬による。未成熟ダニはウイルス保有動物宿主から感染し、卵巣内で継代されると考えられている。
患者の血液・体液の接触により感染し、人から人への感染が多数報告されている。罹患後少なくても
1年間は免疫が残る。特異的な治療法ははく、死亡率が高い。
③ペスト
中世の欧州で大流行を繰り返し黒死病とも呼ばれた。リンパ節炎、敗血症等を起こし、重症例では
高熱、意識障害などを伴う急性細菌感染症であり、死に至ることも多い。臨床的に腺ペストと肺ペストの
2型に分類される。我が国では大正8年横浜市に発生した8例を最後に現在まで発生していない。
④マールブルグ病
マールブルグウイルスの感染により、多臓器が侵され、出血傾向を示す。特異的な治療法はなく、
死亡率が高い。患者の血液、体液の接触により感染するが、手術用手袋等による接触感染予防により感染拡大を
予防できる。1967年西ドイツ、ユーゴスラビアでウガンダ由来のアフリカミドリザル腎細胞より31人感染、
7人死亡した。75年にジンバブエで2人感染、1人死亡、看護婦が院内感染した。80年、ケニアで2人感染、
1人死亡。87年1人発生し、死亡した。90年にケニアで感染例がある。
⑤ラッサ熱
ラッサウイルスのウイルス血症により、肝臓をはじめ多臓器が侵される。多彩な症状を示し、重症な
ものでは出血傾向がある。腎不全、ショックなどで死亡することがある。我が国では昭和62年に1人の届出が
あったのみで、それ以後の届出はない。
(2)二類感染症
①急性灰白髄炎
ポリオウイルスによる中枢神経系感染症であり、重症例では下肢などの麻酔が生ずる。昭和42年以前は、
患者1000~5000人、死亡100~1000人の大流行をみたが、予防接種により激減し、昭和47年以降は海外感染以外には
野生株による発生はない。昭和51年以降死亡の発生はない。世界保健機関(WHO)により根絶対象疾患の一つとして
挙げられている。
②コレラ
コレラ・エンテロトキシン(毒素の一種)をもったコレラ菌による感染症。古典型(アジア型)と
エルトール型の生物型があり、現在流行しているのは、エントール型コレラである。
昭和22年から昭和51年まで、ほとんど報告はなかった。昭和52年から50~100人未満で発生していたが、
平成7年306人に増加した。
③細菌性赤痢
赤痢菌による消化器伝染病。近年はインド、東南アジアなどからの輸入感染症が多く、時に保育所、
幼稚園、福祉施設等で集団発生する。臨床症状は、1~5日の潜伏期の後に、発熱、腹痛、下痢、時に嘔吐によって
急激に発症し、重症例では頻回の便意とともに粘血便を排泄する。志賀菌では重症例が多く、ソンネ菌では軽症例が多い。
④ジフテリア
ジフテリア菌による急性感染症であり、菌が産生する毒素を吸収することで心筋や末梢神経が侵される。
症状は病型により異なる。昭和20年には患者8万5833人、死者7826人が発生している。予防接種により激減し、昭和
44年以降10人未満となった。近年患者の発生は10人以下、死亡者は62年と平成5年に各1人となっている。冬季に
好発していたが、発生数が減少してからは季節性は薄らいでいる。
⑤腸チフス
チフス菌による感染症。潜伏期は1~3週間。39度を超える高熱が1週間以上も続き、熱に比して徐脈、
バラ疹、脾腫、下痢などの症状を呈し、時には、腸出血、腸穿孔を起こす。重症例では意識障害や難聴が起こる
こともある。近年は重症例は減少している。健康保菌者はほとんどが胆のう内保菌者であり、永続保菌者と
なることが多い。
⑥パラチフス
腸パラチフスと同様に、アジア、中東、東欧、中南米、アフリカと世界各地にまん延する全身感染症
である。潜伏期は1~2週間。腸チフスと臨床的には鑑別しがたく、39度を超える高熱が1週間以上も続き、
熱に比してのバラ疹、脾腫、下痢などの症状を呈し、時には、腸出血、腸穿孔を起こす。
重症例では意識障害や難聴が起こることもある。昭和55年を最後に死者は発生していない。
(3)三類感染症
①腸管出血性大腸菌感染症
志賀毒素(ベロ毒素)を産生する腸管出血性大腸菌による感染症。全く症状がないものから軽い
腹痛や下痢のみで終わるもの、さらには頻回の水様便、激しい腹痛、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし、
時には死に至るものまで様々である。有症者の約6~7%では、下痢などの初発症状発現の数日から2週間以内に、
溶血性尿毒症症候群(HUS)又は脳症などの重症合併症が発症する。
資料:「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」速報(厚生省)の参考資料 法律の対象となる感染症の定義・類型より
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