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褐炭
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
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石炭は以下の 5 種類に分類される.
① 無煙炭:もっとも炭素分が多く,発熱量も大きい.表面はキラキラと輝いており,ほとんど煙を出さずに燃える.
製鉄用のコークス,練炭,まめ炭の原料として使われる.
② 瀝青炭:一般に石炭と言えばこの瀝青炭である.コークスの原料,亜瀝青炭とともに産業用,発電用ボイラーの燃
料として用いられる.
③ 亜瀝青炭:コークスの原料としては使えない.産業用,発電用ボイラーの燃料として需要が大きい.
④ 褐炭:若い石炭で発熱量が小さく,水分が多い低品位炭.乾燥させると低温酸化反応により発熱し,発火する.
長距離の輸送に不向き.
⑤ 泥炭:ピートとも呼ばれ,不純物や水分を多く含む.工業用燃料には不向き.スコッチウイスキーの製造過程で
用いられる.
上記の分類には記載しなかったが,石炭は粘結性によって用途が変わる.瀝青炭は燃料のほかに,コークス製造の原
料に利用されるが,この場合,石炭の粘結性が重要な役割を果たす.粘結性の高い石炭は,加熱すると溶融して粒子が
結合しやすくなる特性を有しており,この結合が製鉄高炉用コークスに必要とされる強度を保証する.一方,粘結性の
低い石炭は産業用,発電用ボイラーの燃料として利用される.
褐炭は前述のように水分が多い,発熱量が低い,海上輸送には不向きなど,燃料としては低品質で,国際間で取引さ
れることはほとんどない.生産地の近くで火力発電用に地産地消で細々と使用されているのが現状である.しかし,い
わば厄介者であった褐炭に注目が集まっている.
オーストラリアは世界でも有数の石炭資源国であるが,その石炭資源の半分が褐炭である.ビクトリア州では露天掘
りで褐炭が採掘されている.この地区の褐炭資源は,日本の電力をすべて火力発電で賄った場合,240 年分に相当する
莫大な量である.この豊富な褐炭資源を利用して,水蒸気改質による水素の製造が始まっている.水素は液化された上
で,日本へ海上輸送される計画である.また,好都合なことにこの近くには枯渇しかけた海底ガス田がある.水素の製
造時に発生する炭酸ガスは回収してこの海底ガス田に貯留する計画である.つまり,得られた水素はいわゆるブルー水
素である.
水素がエネルギーとして社会に広く定着するするためには,20 ~ 25 円/Nm3 までコストを下げなくてはならないと言
われている.現在,燃料電池車(FCV)向けに水素ステーションで販売される価格は 100 円/Nm3 である.しかもこの
価格は採算を度外視した戦略価格と言われている.オーストラリアのビクトリア州で進められているこの計画が本格的
に稼働すれば,30 円/Nm3 が達成できると言われている.この水準まで価格が下がれば,一定量の普及を確実に見込む
ことができる.これによって,日本は水素社会実現に向けて大きな一歩を踏み出すことになる.
火力発電において石炭は炭酸ガスを多く排出することからすっかり嫌われ者になってしまった.しかし,一方では今
回のように低品位の褐炭が水素社会実現のために一役買っているとは皮肉なものである.
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