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量子暗号通信 
 
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『量子暗号通信』とは,スーパーコンピュータをはるかに超える計算能力を持つ量子コンピュータでも解読できない暗 号技術のことである.脚光を浴びている背景には,量子コンピュータが 2035 年頃に本格的に登場するという予測 1)か らきている.現在,インターネット通信や電子証明書などで広く使われている RSA 暗号 2)方式などは,最高性能のスー パーコンピュータを使っても解読に 1 億年以上かかると試算されているが,量子コンピュータを使うと短時間で解読さ れてしまう恐れがでてきた 3).量子コンピュータのすごさは,2019 年 10 月 Google が Nature に『世界最速のスーパー コンピュータで推測 1 万年かかる統計数学の問題が,Google の量子コンピュータ Sycamore(シカモア)では 200 秒で 終えた』4)と実証論文を発表したことからもうかがい知ることができる.その量子コンピュータを使っても『絶対に解 読できない』と注目されているのが量子暗号技術である.

量子暗号の仕組みは,量子力学を応用した技術を使って『暗号化されたデータ』と『暗号を解くために必要な鍵(暗 号鍵)』となる情報を別々に送り,『暗号鍵』となる情報は分割して『光子(これ以上分割できない光の最小単位)』1 個 に 1 ビットのデータを乗せて送るのが特徴である(右図参照)5).量子力 学では,『暗号鍵』の情報を盗み見られたときに『光子』の状態が必ず変 化するので,気づくことができる.盗み見られたことを察知した時点で, その情報を自動的に無効にして,自動的に新しい『暗号鍵』を作り直す か送り直すことで,安全にデータを受け渡すことができる仕組みとなっ ている.暗号化されたデータを開けるための『暗号鍵』を安全な形で相 手に届けることができるのがポイントである.
一方で課題もあり,微弱な粒子である光子を利用するため,伝送距離 を延ばすのが困難な点があげられる6).現在は数10?km~数100?km 程度といわれている.日本では政府機関や金融機関, 医療機関といった機密性の高い情報を扱っているところから適用が始まろうとしている.国の安全保障の面からも絶対 に解読されない『量子暗号通信』は欠かせないものとなる.中国は金融や司法の分野で既に実用化しており,2025 年ま でに全土に広げる方針を掲げて力を入れている.IoT やスマートシティ,宇宙開発の時代に,サイバー攻撃による混乱 が生じないような強固なデータ通信基盤を築くために,量子暗号通信は欠かせない技術となるだろう.
出典
1)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54979 (2018).
2)https://ja.wikipedia.org/wiki/RSA% E6% 9A% 97% E5% 8F% B7 (2020).
3)https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01191/012900001/ (2020).
4)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53859730W9A221C1000000/ (2019)
5)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201019/k10012671541000.html (2020).
6)https://cybersecurity-jp.com/column/39454 (2020)

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