最近気になる用語 316
培養肉
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
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今回の最近気になる用語は,ここ数年で急速な広がりをみせている培養肉について取り上げたい.
培養肉は,植物性タンパク(大豆タンパクなど)を原料としたこれまでの代替肉とは異なり,動物の可食部の細胞を
培地(養分を含む水溶液)で培養(増殖)させた細胞の塊(ミンチ肉)である.したがって,これを調味して成型すれ
ばハンバーグなどの加工食品となるため,畜肉の代替原料として全世界で有望視されている.元となる細胞は牛の筋肉
に限らず,豚や鶏さらにはフォアグラなどの部位,水産物では鯛,鰤,海老など,世界各地で様々な細胞の培養試験が
始まっている.
このように,一見すると培養肉の研究は順調に発展しているようにも見えるが,技術の壁は培養ではなく,むしろ食
感の再現にある.培養した細胞はバラバラで組織を形成していないため,肉の食感を再現するためには意図的に 3 次元
的な組織構造を形成しなくてはならない.根本的な方法としては型枠に筋細胞を流し込んだ後,それぞれの細胞を融合
させて筋線維を形成したり 1),また商品開発的な方法としては,脂肪や血管などの細胞を個別に培養した後,特定の比
率でこれらを混合して食感に特徴を持たせたりなど,様々な工夫がなされているようである.筆者は以前に加工食品の
開発をしていた経験があるが,材料,分量,工程を同じにしても再現できるのは味や風味であり,食感の創出は桁違い
に難しいことを思い出してしまった.このように考えると,カニ足の食感を再現した「かにかま」の技術は培養肉と同
じくらいに革新的な技術であるのかもしれない.おそらく,培養肉の発展にもこの手の技術開発や工夫が必要になって
くるのであろう.
2013 年イギリスで開催された世界初の培養肉の試食会が話題となり,日本でも今年の 1 月に培養肉普及を目指した企
業連合(細胞農業研究会)が誕生した.来年の 9 月には一般向けの試食会を目指しているとのこと 2).どんな食感に仕
上がっているのか楽しみでもある.
なお,人類がこの培養肉を必要とする理由として,よく挙げられるのが環境問題である.従来の家畜生産に比べ,1%
の土地と 4%の水でよく,温室効果ガスは 96%削減されるため,環境によいとされるが,一方で培養肉は本当に「環境
に優しい」と言えるのか? と疑問を呈する専門家も沢山いる.冷静に考えてみれば世界中の人々が同じように牛肉,鮪,
昆虫を食べる必要はまったくなく,土地のものを必要な分だけ食べれば,こんなややこしいことを考えなくても良い気
もするが…(こうもりを食べる必要はないと思うが,「ほや」や「かど」は美味しいですよ.食べてみませんか?) 食
べるべきものはほかにいくらでもある.豊かな食文化をもつ日本に感謝しましょう.ご馳走様でした.
出典
1)https://www.jst.go.jp/pr/announce/20190322/index.html (2019).
2)https://mainichi.jp/articles/20200124/k00/00m/020/497000c (2020)
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