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 ピッツァ 
 
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
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 あえて言おう.それはピザではなく,ピッツァであると.あえて答えよう.10 回言った後に,そこは膝ではなく,ピッ ツァであると.
 ピッツァは,小麦粉,水,塩,イースト,砂糖,オリーブ油などを混捏して発酵させた生地を丸く薄くのばし,ソー スと具材を乗せて焼成したものである.ピッツァは,生地のレシピはフランスパンのそれと基本的に同じだが,石窯を 用いて高温で短時間焼成する点に特徴がある.また,フランスパンは一旦冷ました後にそのまま,あるいは再加熱して 食するのに対し,ピッツァは熱々の状態で食するという点も異なる.筆者らの調査によると,ピッツェリアで提供され るピッツァの初期内部温度は70 ~ 80 ℃程度であり,おおよそ10 分で人肌程度まで低下する.イタリアでは一人で一枚 のピッツァを熱いうちに食するのが一般的だが,日本では複数名でゆっくりと食する機会が多い.カットしたピッツァ の数が人数で割り切れない場合,端数は冷え固まるまで放置され,そのまま廃棄に至るケースも少なくない.
 美味しいピッツァは石窯を用いた高温短時間焼成によって実現される.石窯の歴史は長い.現在のような釜口を前に 構えたタイプは古代ギリシャの時代に誕生し,ローマ人がヨーロッパ中に普及させたといわれている1).石窯の熱源で ある薪の火はおおよそ800 ℃あり,窯上部は500 ℃,底部は400 ℃程度になる.煙突をつけると燃焼が活性化し,上部は 600 ~ 800 ℃近くに達するが,エネルギー効率は低下する.家庭調理でこのような高温を実現することは難しいが,グリ ルを用いれば石窯焼成の品質に近づけることはできる.また,最近ではピッツァ焼成に特化した調理器具も販売されて おり,家庭用コンセントでも400 ℃程度の高温焼成を実現できる.なお,この調理器具ではナンを焼くこともできる.
 ピッツァのクラスト(土台)はローマタイプとナポリタイプとに大別される.前者はクラストが薄く,パリパリとし た食感を,後者はクラストが厚く,もっちりとした食感を,それぞれ楽しむことができる.日本人の嗜好に合うのはナ ポリタイプといわれている.本原稿を執筆中であった2017 年12 月上旬,ナポリピッツァの技法がユネスコの無形文化 遺産に認定されたことが報じられた.ナポリでは人々の歓喜とともに,ピッツァ生地が回転しながら宙を舞う光景が目 に浮かぶ.人類が共有すべき普遍的価値である.

 ミラノには上記2 種類に属さないピッツァもある.生地と各種具材を専用のフライパンに乗せ,それを石窯で焼成す るものである.フライパンからの伝導伝熱がクラスト底部をサクサクとしたクッキー様の食感に仕上げる.喫食は時間 との戦いであり,一定時間が経過するとクラスト底部の 食感はふにゃふにゃになってしまう.これは水分移行に 伴うガラス-ラバー転移によって説明される2).焼成に 際しては,クラスト底部の焼き具合を確認しながら適宜 オリーブオイルを追加し,サクサクに仕上げることに細 心の注意が払われる(図1).このとき追加するオリーブ オイルの量を大幅に増やし,クラスト底部をフライ様の カリカリとした食感に仕上げるものが,最近のトレンドの ようである.油分が多いため,クラスト底部の食感も維持 されやすい.このピッツァを提供するミラノの有名店は東 京都内にも進出を果たしている.百聞は一見に如かず.

文献
1)石窯・ピザ窯作り研究会編:「失敗しないピザ窯作りの基本」,日東書院本社.
2)Sogabe, et al.:J. Food Eng., 217, 101-107(2018).


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