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 ワークプレイス/ワークスタイル/働き方改革 
 
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
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 長時間労働による過労死やその労災認定などは,ニュースでも大きく取り上げられて1)社会問題となった.一方,少 子高齢化やそれによる労働人口減少への対策として,政府は「1 億総活躍社会の実現」をスローガンに,「働き方改革」 を推進している2).本学会会員企業・各職場においても「働き方改革」に取り組んでいることであろう.今回は,働く場 (ワークプレイス)である「オフィス」について,主にその変遷と関連する「働き方」(ワークスタイル)について解説を試 みる.
 現代のオフィス空間の特徴を備えたオフィスは,1950 年代末頃に米国のシーグラムビル(1958)やユニオンカーバイ ドビル(1960)などに代表される高層オフィスビルが登場したのがその起源とされ,その後のモジュール化された内装 や家具によるオープンオフィスに発展していったと言われている3).また,ほぼ同時期に,これまでの教室型の画一的 配置に対して,ドイツでは「ビューロランドシャフト(英語ではオフィスランドスケープ)」と呼ばれる自由なレイアウ トが提案された.この後,米国ではオフィスにおける人の行動分析によるプランニングへの科学的アプローチをもとに, 前述したように家具・パネルシステムとともにオープンオフィスが広く普及していった.一方,日本では,米国の影響 を受けつつも,面積効率や組織構造へのこだわりから,従来型の島型対向式の机配置が主流のまま維持された.
 1980 年代に入るとパソコン(PC)が普及し,業務のスタイルは「オフィスオートメーション(OA)」という言葉にこ められているように定型化された情報処理が主となり,オフィスワーカーは決められた分担作業を行うようになっていっ た.1980 年代の後半になると,オフィスの居住性・機能性を高めるという気運の高まり,またバブル経済による底上げ, 「ニューオフィス推進運動」などによって,快適で機能的なオフィスが数多く実現されることになった4)
 さらに,1990 年代以降,情報通信技術(ITC)の進展,グローバル化の流れによるビジネス環境の変化に対応するため に,「オルタナティブオフィス」と総称される概念がでてきた.ITC の進展を背景に既存オフィス内の定住型から,携帯 端末を利用したモバイルワーク,テレワーク(リモートワーク/リモートコミューティング)や在宅勤務などの非定住型 の働き方(ワークスタイル)も選択可能(オルタナティブ)というもので,従来の「オフィス」から「ワークプレイス」 というより広い概念へと変化していった.
 新しいワークプレイスのための計画の要点は「ユニバーサルプラン」である.これは個人席の什器や備品を標準化し, 組織や人員の変動に対応してレイアウトを変えるのではなく,人とPC だけを移動させる方式である.これには,組織 変更に柔軟かつコストを掛けずに素早く対応できるという大きな利点がある.たとえば,営業職などの外出の多い非定 住型ワーカーに対しては席を固定しない「フリーアドレスシステム(日本での一般呼称)」「(正式には)ノンテリトリア ルオフィス」を設けて,誰でも使える共有席としてスペース効率を高める方法もそのひとつといえよう.
 執務フロア内に,パーティションで仕切る会議スペースや,植栽で軽く仕切りをつけたり床仕上げ材を変えたりして インフォーマルなミーティングスペースを設けるなど,組織・個人の行動に合わせてひとつのスペースに様々な機能を 合理的に配置する「アクティビィティセッティング」と呼ばれる方法も,スペースと仕事の効率を高める効果的な手法 とされている.しかし,こうした新しいワークプレイスの実例は一部の先進的企業で採用されているものの,日本企業 の大部分(おそらく9 割以上)では階層型の組織図を大部屋平面に再現したような,いわゆる「島型対向配置」が踏襲 されているとの指摘もある5)
 ワークプレイスの照明設備や空調設備に関しては,ワーカー各個別の快適性に応えつつ全体で省エネルギーを図ると いう観点から,タスク&アンビエント方式の採用例が増え始めている.
 日本の労働生産性については,かねてからその低さが指摘されており,最新の統計6)でも1 人当たり労働生産性は米 国の6 割強の水準で,OECD 加盟国35 カ国中20 位,主要先進7 ケ国の中では最下位という相変わらずの状況が続いて いる.そこで,生産性向上のため経営学の分野から,従来の「情報処理型」ワークから「知識創造型」ワークへの転換 の必要性が指摘され,知的創造理論に基づいた行動モデルが提唱されている7)
 共通の価値観のもとに,異種・多様な人材が集い,刺激しあい,創造的な活動を行う場が,ワークプレイスに求めら れる真の役割であろう.働き方改革は,単に新しいレイアウトとICT などのインフラを用意しただけで達成できるとい う単純な問題ではない.私たち自身の問題として各人が取り組むことは当然ながら,職場・企業組織の変革や,さらに は産官学を含めた社会全体で取り組むべき課題であると考える.
 
 参考資料
 1) 日本経済新聞:「長時間労働,異例の立件へ,強制捜査,労基法違反容疑で」(2016.11.7),他多数.
 2) 首相官邸,働き方改革会議:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/
 3) 岸本章弘:「ワークプレイス50 年の変遷と今後」,月刊近代家具,臨時増刊設立50 周年記念号,(2015).
 4) ニューオフィス推進協会:日経ニューオフィス賞,https://www.nopa.or.jp/prize/contents/congratulation.html
 5) 岸本章弘:『「組織を配置する空間」から「機能を配置する空間」へ』,OMNI-MANAGEMENT,日本経営協会,(2014).
 6) 日本生産性本部:「労働生産性の国際比較 2018 年版」.
 7) 野中郁次郎,竹内弘高著,梅本勝博訳:「知識創造企業」,東洋経済新報社,東京(1996).
 8) ファシリティーマネージャー資格更新講習委員会:「ファシリティーマネジメントキーワード集」,日本ファシリティマネジメント協会,東京(2016).


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