最近気になる用語 274
 南岸低気圧 
 
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
当時の記事をそのまま掲載していますので古い内容や、当会の専門分野とは無関係な内容もあります。
また、お問い合わせに対しては答えられませんのでご了承下さい。


 平成22 年の国勢調査によれば,東京23 区内に通勤・通学する人の数は,近隣7 県と23 区以外の東京都内をあわせる と314 万4 千人1)とのことである.何らかの事情で交通機関が正常に機能しなくなると,この多くの人達に影響が及ぶ.
 首都圏は特に雪に弱い.雪の降る地方の方々は,数センチの降雪で大騒ぎになる東京を不思議に思われるであろうが, 発生頻度とコストの兼ね合いなのか,多くの機構や構造物は基本的に大雪を想定していない.携わる方々が運用で何と かしているというのが実情ではないだろうか.
 関東に大雪が降るときによく聞く用語が南岸低気圧である.気象現象としては日本の南海上を主として東から北東に進む 低気圧を指すが,南岸低気圧自体は通年発生しており,そのほとんどは雨をもたらす.しかし条件が揃うと雪になってしまう.
 大雪の降る条件はいくつかあるが,まず重要なのは南岸低気圧の進路である.遠すぎる場合は関東に雨雲は掛からない (図1(c)).しかし近すぎると,低気圧が海上から吸い込んだ湿った暖かい空気の影響で雨になることが多いという(図1 (a)).降雪に都合の良い進路があるようだ.進路は雲の発達にも影響し,これにより雲の拡がり方が変わってくる.
 次に地表から上空までの鉛直方向の気温の変化が重要である.雲の中で作られる 降水は,夏以外は雪であるといわれている.地表から上空までの気温が氷点下であ れば雪のまま降るし,プラスであれば解けて雨になる.しかし雪は解けることで周 囲の空気から凝結熱を奪うため,解けた地点の周囲の空気は徐々に冷えていく.冷 えた空気が一定の厚さとなり地上からの高さ数百メートルの空気層を形成する (図2).これらをあわせて,関東地方においては850 hPa で-4 ℃以下4)といわれ ている降雪の条件が,どの場所に発生するかを三次元で予測する必要があるため, 南岸低気圧の予想は難しいといわれている.
 大雪と南岸低気圧に関する研究は現在も盛んに行われており,気象データに基 づく数値解析とあわせて雨と雪の判別を地上の温湿度から求める手法(図3)など も提唱されている.
1) 平成22 年国勢調査最終報告書 日本の人口・世帯,総務省統計局ホームページ
 http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/final.htm (2014).
2) 予測が難しい現象について,気象庁ホームページ 
 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yohokaisetu/yohokaisetu.html(2016).
3) 雪に関する予報と気象情報について,気象庁ホームページ
 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/koushu121207/shiryou2.pdf(2016).
4) 平成21 年度数値予報研修テキスト,気象庁ホームページ
 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwptext/nwptext.html(2016)

「最近気になる用語」
学会誌「冷凍」への掲載巻号一覧表

学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
当時の記事をそのまま掲載していますので古い内容や、当会の専門分野とは無関係な内容もあります。
また、お問い合わせに対しては答えられませんのでご了承下さい。