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 バイオミメティクス 
 
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
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 バイオミメティクスとは,生物の形態,構造,機能,能力などを模倣して産業利用することであり,日本語では生物 模倣技術や生物規範工学などと訳される1).具体的な例として,ハスの葉の階層的な突起構造と撥水性との関係に着想 を得た雨具,ヤモリの指の表面に存在する細かく枝分かれした毛と粘着力との関係を応用した粘着テープ,カタツムリ の殻の水膜構造と自動洗浄作用との関係から導かれた住宅の外壁材,などが挙げられる.こうした成功事例の背景には, 微細構造の観察を可能にした電子顕微鏡などのバイオイメージング技術の向上があることはいうまでもない.
 巨視的な視点においてもバイオミメティクスの成功例は数多く挙げられる.たとえば,カワセミの口ばしのような形 状は新幹線の流体抵抗を低減させ,フクロウの風切羽構造のようなパンタグラフは防音効果を生み出している.科学技 術の産物は機能の追及によって生物に近づくのである.人間への接近も例外ではない.産業用ロボットは人間の機能を 模倣したものであり,その導入によって生産の効率化が推し進められてきた.さらに最近では人工知能の研究開発が急 速に進められており,将来的には創造的な仕事や物事の予測,判断も機械が行えるようになるといわれている.人工知 能が我々人間を正しく導いてくれるのであれば,我々の将来に対する悩みや不安も払拭されるであろう.そのとき,ヒ トはそれを“カミ”と呼ぶのかもしれない.
 広義に解釈すると,バイオミメティクスは芸術分野においても発揮されている.たとえば,我々が美しいと認識する 形やパーツ配置は黄金比(1:1.618)とよばれる自然界の法則(ヒマワリの種の螺旋配列やオウム貝の螺旋の比率など) によって表すことができると考えられている2,3).後付けかもしれないが,モナ・リザは自然の造形美を幾何学的に模倣 し,美術品に利用した結果と捉えられる.我々が黄金比によって表される形やパーツ配置を美しく感じるのは,それと 相似する造形美が自然界に多数存在するためと解釈される2).西洋とは異なる自然環境や文化の中で過ごしてきた日本 人には,黄金比よりもやや小さい白銀比(1:1.414)も支持される3).こうした知見は美容整形やコスメティック分野な どで産業利用されており,自然の造形美が不自然な方法によって作り出されている.綺麗な薔薇にはとげがある.ヒト はバイオミメティクスの対象であり,産物ともいえる.
 文献
 1)篠原現人,野村周平編著:「生物の形や能力を利用する学問 バイオミメティクス」,東海大学出版部,(2016).
 2)望月修:「物理の眼で見る生き物の世界―バイオミメティクス皆伝―」,コロナ社,(2016).
 3)牟田淳:「デザインのための数学」,オーム社,(2016).

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