最近気になる用語 27
新興・再興感染症
(Emerging・Reemerging Disease)
                             


  ヒトはこれまでペスト・痘そう・コレラなどの感染症により、文明の危機に及ぶような甚大な被害を被ってきたが、 堪まぬ努力により医療の進歩、衛生水準の向上などでそれらの大部分は克服されてきた。
  しかし近年、国際交流の進展に伴う、森林開発、急激な都市化、交通機関の発達、技術革新などで、今までに経験しな かった病原体に遭遇する機会が増え「かつて知られていなかった新しい感染症―新興感染症」の出現を招いた。またこ れら感染症の大分部を占める開発途上国における人口急増、栄養失調による免疫不全、またエイズ感染者の増大が、先 進国への移民難民による地域限定の病気が地球規模に広がり「近い将来克服されると考えていた古い感染症―再興 感染症が復活してきた。感染症というと従来、空気、ヒト、動物、昆虫等の媒介で病原菌が感染するのが常識であっ たが、今では食品を解しての飲食、接触感染が増大してきたため、食品関係者には特に関心がもたれる。
  これらの病原微生物、ウイルス、原虫等を次に掲げ、主要なものにつき紹介する。なお従来の「伝染病予防 法」に替る新法が公布されたので紹介したい。
 
①新興感染症
 レジオネラ菌/ヘリコバクター・ピロリ菌/ボレリア・ブルグドルフェリ(ライム菌)/クラミジア・ニューモニエ(異 形肺炎)/病原性大腸菌(腸管出血性大腸菌(EHEC)、病原性(EPEC)、毒素原性(ETEC)、 組織侵入性(EIEC)/サルモネラ・エンエリエイデス菌/ビブリオコレラO-139(新型コレラ)/新型髄膜炎菌/ 毒性ショック症候群黄色ブドウ球菌、化膿連鎖菌/プリオン/ヒト免疫不全ウイルス(HIV)/クリプトスポリージウム原虫 /サイクロスポラ/小形球形ウイルス(SRSV)(スノーマウンテンウイルス、ノーウォークウイルス、ヒトカリシウイルス、 アストロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス)/エボラウイルス/ハンタウイルス/ヒトT細胞白血病 ウイルスA,B,C,D,E型肝炎ウイルス/ヴエズエラ出血熱/デング出血熱/薬剤耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)、ペニシリン非感受性連鎖球菌(PISP)、ペニシリナーゼ産性淋菌(PPNG)、テトラサイクリン 耐性淋菌(TRNG)、バンコマイシン耐腸球菌(VRE))
 
②再興感染症
劇症型A群レンサ球菌(ヒト喰いバクテリア)/ペスト/ジフテリア/結核/コレラ/サルモネラ症/百日咳
 
③輸入感染症(上記感染症、その他我が国に輸入されている感染症例)
 熱帯マラリア/フィラリア症/日本脳炎/黄熱/デング熱/ペスト/ツツガムシ病/A型肝炎/B型肝炎/E型肝炎 /下痢ウイルス/コレラ/赤痢/腸チフス-パラチフス/赤痢アメーバ/ランブル鞭毛虫/クリプトスポリジウム/ ブルセラ症/狂犬病/住血吸虫/有棘顎口虫/病原性細菌/破傷風/リーシュマニア症(サンチョウバエ)/睡眠病(ツエツエバエ)
 
④「感染症の予防及び感染の患者に対する医療に関する法律」(法律114号)
(平成10年10月2日公布、平成11年4月1日施行)「伝染病予防法」は廃止
新感染症   一類感染症 エボラ出血熱/クリミア・コンゴ出血熱/ペスト/ラッサ熱/マールブルグ熱
  二類感染症 急性灰白髄炎/コレラ/細菌性赤痢/ジフテリア/腸チフス/パラチフス
  三類感染症 腸管出血性大腸菌感染症
指定感染症   四類感染症インフルエンザ/ウイルス性肝炎/黄熱/Q熱/狂犬病/クリプトスポリジウム症/ 性器クラミジア感染症/後天性免疫不全症候群/梅毒/麻しん/マラリア/メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症/他 厚生省令で定める

(「冷凍」1998年12月号掲載)
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