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絶対零度
                             


 家庭用の冷凍庫の温度は約-18 ℃である.冷凍マグロの倉庫は-60 ℃である.また,生物の細胞や精子,卵細胞など の保存に使用されている液体窒素の沸点は-196 ℃である.我々が,比較的容易に利用できる低温の下限はおそらくこの あたりまでだろう.
 研究・産業レベルではさらなる低温が利用されている.医療用MRI では,強大な磁場を発生させるのに必要な超電導 状態を維持するために,液体ヘリウムが使用されている.その沸点は-269 ℃である.さらなる低温はどこまで可能だろ うか? 常識的には「絶対零度」ということになる.絶対零度は-273.15 ℃である.統計力学的には,温度は,物質の 振動運動を基に規定されている.そのため,振動運動が止まっている状態が温度の下限ということになり,それが絶対 零度である.歴史的には17 世紀に,温度を下げていくと一定の割合で空気の体積が減少することを観察したフランスの 科学者が,体積はゼロの値はとれないはずだとの考えから,温度に下限があると考えたことに由来する.そして,イギ リスのケルビン卿により,すべての分子の運動が停止する温度として絶対零度という概念が導かれた.
 さて,ここまでの話を聞くと,絶対零度はすべての物質の運動が止まっており,運動エネルギーはゼロであることに なるが,ケルビン卿の後に発展した量子力学によれば,不確定性原理により,絶対零度であっても振動は止まらないこ とになるという.さらに最近,ドイツの科学者たちが絶対零度以下の物質の作製に成功したというから,ますますやや こしい(Science 339, 52-56(2013).).絶対温度の極近傍で止まっていない高いエネルギー状態にある分子のエネルギー 状態を反転させると絶対温度以下になるということらしい(?)のだが,彼らは,レーザーと磁場を巧みに利用すること で実現したのだという.絶対温度以下の物質はきわめて奇妙な挙動を示すという.たとえば,重力に逆らって上昇をす るとのことである(Nature doi:10.1038/nature.2013.12146).なぜそのようなことが生じるのかの説明は,筆者の理解の能 力を越えているため省略するが,自然界にはまだまだわからないことがたくさん隠されているのは確かのようである.

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