最近気になる用語 226
iPS 細胞(induced Pluripotent Stem cell)
                             


 2012 年度のノーベル生理学・医学賞を,京都大学教授の山中伸弥iPS 細胞研究所長が受賞したことは,記憶に新しい ことである.この発見は,自身の細胞を用いての体組織の再生や,アレルギー・副作用の検査などを可能にするため, 再生医療や新薬開発に革命的な力を与えることになった.
1.iPS 細胞とは 人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cell)の略.皮膚などの細胞から作製し,体のあらゆる細胞や組織に成 長できる性質を持つ.患者に移植すれば,病気やけがで失われた身体機能を回復させる再生医療に役立つと期待される. また医薬品開発の現場では,臨床試験に代わってiPS 細胞から作られた内臓や皮膚などの組織が,アレルギーや副作用 の被検体となれることから,新薬開発のスピードが飛躍的に高まることが期待されている. 山中教授は,2006 年に世界で初めてマウスの皮膚細胞からiPS 細胞を作った.iPS 細胞は受精卵のように体のどんな 部分にも再び育つ.皮膚などにいったん変化した細胞が,生まれた頃に逆戻りするという発見は生物学の常識を覆した. 細胞の時計の針を巻き戻せることを示した「初期化(リプログラミング)」と呼ぶ研究成果は,「まるでタイムマシン」と 世界を驚かせた.
2.ES 細胞との違い 胚性幹細胞(ES 細胞)は,同様に体のあらゆる細胞や組織に成長できる万能細胞であるが,生命の萌芽とされる受精 卵を壊して作られる点が異なる.ヒトES 細胞の場合は,受精卵であっても生命を奪うという倫理性の問題が生じ,ヒ トの通常細胞から作られる「iPS 細胞」は,特に欧米社会で高く評価された.また,ES 細胞は別人の細胞を使うために, 免疫の拒絶反応を避けられないという課題が残る. i が小文字なのは,「多くの人に研究に親しんで貰えるよう米アップル社の携帯音楽プレーヤー『iPod』にちなんだ」 (山中教授)ということらしい.

文献 「日本経済新聞」10 月9 日より内容引用


「最近気になる用語」
学会誌「冷凍」への掲載巻号一覧表