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アイスマン
                             

アイスマンは,1991 年にアルプス山脈で発見されたミイラである.発見地にちなんで「エッツィ」と呼ばれることも ある.ミイラといえば多くの方が人工的に製造された乾燥物を想像するであろう.しかし,アイスマンは氷河の中で偶 然にできたウェットミイラである.ヒトの姿をほぼ完全に残した最古のミイラであり,乾燥ミイラよりも保存状態が良 好であることから,アイスマンには高い考古学的価値が認められている.様々な研究を通じて,これまでに明らかにさ れたアイスマンの生前の人物像は以下のようなものである.
・身長約163 cm,体重約50 kg,年齢35 ~ 40 歳,O 型
・顎鬚,ピアス,入れ墨などの形跡がある
・背後から矢で射られたことによる出血が死因
また,アイスマンのミイラ化メカニズムは次のように考えられている.死後間もなく雪が降り注いだため,微生物に よる腐敗を免れた.軟らかく積もった雪の中を乾いた風が絶え間なく吹き抜けたため,アイスマンから水分が奪われた. 岩盤の溝に横たわっていた(低温空間に閉じ込められていた)ため,氷河による物理的損傷を免れた.このような幸運 が重なった結果であると考古学者は主張するが,死因を見る限り,本人にとっては不幸な出来事であったに違いない. 現在はイタリア北部の南チロル考古学博物館に展示されている.
話題が少し外れるが,筆者が大学院生だった頃,研究室の冷凍庫に放置されていた12 年前の冷凍オムレツを食べる機 会があった.製品を開封すると,中には氷結晶が散乱しており,トレイ上のオムレツは干乾びていた.12 年の時がオム レツの水分を徐々に奪い取り(氷の再結晶化),ミイラ化させたと考えられる.これを食べるにあたっては,解凍ではな く,お湯で戻す必要があったことは言うまでもない.味は良好であり,製造直後のオムレツが冷凍庫の形をしたタイム マシンによって12 年前から運ばれてきたことを実感した.これと同様に,もしアイスマンをお湯で戻すことができたな ら,5000 年前に生きた彼は我々に何を語るであろうか.筆者はこう考える.「私は美味しくないですよ」.
文  献
1) デイビッド ゲッツ(赤澤威訳):「アイスマン5000 年前からきた男」,㈱金の星社,(1998 年5 月発行).
2) 藤井司:「死体入門!」,㈱メディアファクトリー,(2008 年3 月発行).
3) 南チロル考古学博物館HP:www.iceman.it/en/oetzi-the-iceman

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