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軌道エレベーター
                             


 「エレベーターに乗って地上と宇宙を行ったり来たりする.エレベーターのターミナ ル駅で発電を行い地上に電力を供給する」こんな夢のように壮大な構想を2050 年に実現 させると,ゼネコン大手の大林組が2012 年2 月20 日に発表した.
 軌道エレベーターあるいは宇宙エレベーター,静止軌道エレベーターなどと呼ばれる この装置は,宇宙と地上を結ぶこれまでにない輸送機関で,地上から天へと伸びるタ ワーのようなものである.かつて,夢物語として漫画や小説などの題材に取り上げられ ていたが,現在,それが理論的には実現可能なものになったのだ.
 現在の宇宙開発の主役は,噴射剤の反動を利用するロケットだが,これは墜落や爆発 など事故のリスクが伴い,膨大なエネルギーを消費しコストも非常に高い.しかし,軌 道エレベーターにはその危険性はない.実現すれば宇宙開発は大きく躍進し,特殊な訓 練を受けねばならぬ宇宙飛行士ではない我々や,おそらくは高齢者や体が不自由な方も 宇宙を訪問する機会が得られるであろう.かつては,軌道エレベーターを建設するため に必要な強度を持つ素材が存在しなかったが,20 世紀末になって金属よりも遙かに軽く 強度の高いカーボンナノチューブが発見されたことにより,その実現が可能となった.
 軌道エレベーターの仕組みは,赤道上の高度3 万6 000 km の軌道上に静止した人工 衛星を,その重心を静止軌道上に保持したまま地上に達するまでケーブルを引き伸ば し,そのケーブルを伝わって昇降するエレベーターといえば簡単に理解できるであろう. また,次にこの静止軌道の人工衛星から地球と反対側にケーブルを出していくと,地球の重力より遠心力の方が勝り, ケーブルは上へと伸びていく.これで,静止衛星を中心とした軌道エレベーターが保持されるわけである.当然ながら, 静止衛星より上に行くエレベーターは動力は不要で,静止衛星から下降するエレベーターも動力は不要となる.軌道エ レベーターの全長は,地球上から静止衛星を中心に反対側のエレベーターも含めると,5 万~ 10 万km にもなると考え られている.これは,地球の直径の4 ~ 8 倍もの長さになる.エレベーターとはいっても,通常のワイヤー吊り上げ式 ではなく,リニアモーターを動力として走らせる構想が一般的である.
 今回の大林組が計画する軌道エレベーターのケーブルの全長は,月までの約4 分の1 の長さにあたる9 万6 000 km で,根元を地上の発着場に固定し,中心部のターミナル駅には実験施設や居住スペースを設置し,30 人乗りのエレベー ターボックスは時速200 km/h で片道を7 日半かけて地上と往復するそうだ.ターミナル駅周辺では太陽光発電を行い, 地上に電力を供給する.地球上の太陽光発電とは比べものにならないほど,効率的な発電が可能となるらしい.
 こんなに大きな建造物をどうやって建設するのかというと,まずロケットを打ち上げて,赤道上の高度3 万6 000 km の上空に宇宙ステーションを建設する.次に,バランスを取りながら地上とその反対側にケーブルを伸ばしていく.始 めは細いケーブルを設置し,そのケーブルを何回も上り下りして幅や太さを増加させていく.そしてケーブルの幅が1 m ほどになったら,さらに機材を上げて幅1 m のケーブルを何本も建造し,最終的には長い筒状にするのだとか.約10 万 km の長さを完成させる時間を考えたら気が遠くなりそうだ.
 軌道エレベーターは,月や火星などへと向かうための中継基地としての役割も重要で,宇宙開発にはなくてはならな い技術と期待されていており,米航空宇宙局(NASA)なども研究を進めているという. 参考:宇宙エレベーター協会(http://jsea.jp/ja) 日本大学理工学部 精密機械工学科 青木研究室(http://www.eme.cst.nihon-u.ac.jp/~yaoki/) など

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