最近気になる用語 212
放射線量を表す単位
                             


 東京電力福島第一原子力発電所における事故発生以降,マスメディアおよびインターネット上で放射線による危険性 について様々な報道がなされてきた.またこれに伴い,食品の安全性や人体への影響に関して各部門の専門家から様々 な見解が示されてきた.一方,それに伴って使用される用語は一般に馴染みが薄く,我々の生活に置き換えた場合に判 断が困難であると感じる機会が多かったように思う.そこで本稿においては,放射線と,これに関連して特に多用され た用語であるベクレルおよびシーベルトについて,簡単ではあるが解説を行う.
 放射性物質,たとえば原子力発電などで用いられているウランやプルトニウム,今回の事故で問題となったヨウ素や セシウムといった元素の同位体は放射性同位体と呼ばれ,自然に存在しているだけでアルファ線,ベータ線,中性子線 などの質量を伴った粒子線や,ガンマ線,エックス線などの電磁波を放出し続けている.これらの放射線は電離放射線 と呼ばれ,衝突もしくは吸収した原子と相互作用を起こし,イオン化させる性質(電離作用)を有する.このため,放 射線を浴びた細胞中の一部がイオン化されるため,破壊や異常修復が起き,様々な悪影響が体内で生じる.
 最近では,空間中に放出される放射線量を測定する器具としてガイガー=ミュラー管を用いたガイガーカウンターが 注目されており,これは放射線によりイオン化した不活性のガスを検出する機器である.このほかにも同様の原理に則っ た放射線測定機器があるが,これらの計測単位がベクレルである.ただし,これら空間中の放射線量を測定する方法は, 距離や周辺の放射線量により結果が一定せず,加えて放出される放射線の種類により検出感度や人体への影響が異なる ため,使用する際にはその点に留意をすることが求められている.さらに,ここで測定された放射線量は表面に受ける 放射線量を表しているため,食品として摂取する場合,すなわち体内に吸収する場合は,そこに含まれる放射性物質の 量を知り,発表されている基準値と比較することが重要であると考えられる.ただし,放射性物質の分析・測定には様々 な装置,器具などの施設設備および習熟した分析・測定技術が必要となり,個人レベルでの測定は非常に困難であるた め,厚生労働省により随時発表されている「食品中の放射性物質の検査結果*」を参照することでこれに代えることが できると思われる.
 一方で,放出された放射線の物体への吸収量を表す単位はグレイ(1 グレイ= 1 J/kg)と呼ばれ,単位重量(kg)あ たりにどれだけの熱量(J)が吸収されたかを示しており,測定はシンチレーション検出器により行われる.これは, 放射線が放出する高エネルギーの光子を,多数のより低いエネルギーの光子に変換,その蛍光を測定する方法である. 一方で,先述したように数種類の放射線が存在し,1 グレイあたりの生体への影響力はそれぞれに異なるため,その強 度を換算するために放射線荷重係数が用いられている.たとえば,アルファ線(放射性元素が崩壊し放出されたヘリウ ムの原子核)の係数は20 で,ガンマ線(原子核崩壊での余剰エネルギーの放出)の係数は1 である.よく聞かれる単 位としてシーベルトが用いられているが,この値は測定されたグレイの値に放射線荷重係数を乗じたものである.ただ し,アルファ線などの係数が高い放射線は皮膚表面を通過することができず影響は小さいために用いられず,特に影響 があるとされるガンマ線などの係数1 を用いるため,ほとんどの場合はグレイとシーベルトは同義として用いられてい るようである.
 以下に,各単位について比較しやすいように表を示した.これらの用語をよく理解し,現状の危険性,安全性をこれ まで以上に理解していただき,今後の生活の一助となることを望む.
表1 放射線量を表す単位の測定原理および代表的な測定機器について

*東京電力福島第一原子力発電所事故による農畜水産物等への影響
http://www.maff.go.jp/noutiku_eikyo/mhlw3.html
 
単位 測 定 原 理 代表的な測定機器
ベクレル 放射線によりイオン化した不活性のガスを検出
(放射線の数を測定)
ガイガーカウンターなど
グレイ 放射線が放出する高エネルギーの光子を多数の
より低いエネルギーの光子に変換,
その蛍光を測定することで元の放射線量を特定
(放射線のエネルギーを測定)
シンチレーション検出器など
シーベルト グレイ値に人体への影響を乗じ算出 同上

「最近気になる用語」
学会誌「冷凍」への掲載巻号一覧表