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都市型キャップ・アンド・トレード
                             


 キャップ・アンド・トレードのキャップとは,ある「もの」を所有する量に上限(キャップ)を設けることで,トレードとは, 「もの」を対価を払って引き取ってもらう(トレード)ことを意味している.本稿では,その「もの」が「温室効果ガ ス排出」,「トレード」が「排出量取引制度」,「キャップ」が「排出総量削減義務」に対応する温室効果ガスの排出規制 について考えたい.具体的には東京都による「温室効果ガス排出の総量規制と排出量取引制度」(環境確保条例の改正) の内容についてみてみたい.
 温室効果ガス排出の地球規模の抑制では,国単位で決められた総量削減義務があり,排出権取引も存在することは知 られている.温室効果ガス排出量は,ほぼエネルギー消費量に比例しており,その内訳は日本全体では産業界が非常に 多いことが知られている.東京都のような都市では,同じキャップ・アンド・トレードでも,国家型とは対象となる業 界の内訳が異なるため,“都市型”ということになる.都市では業務(商業, サービス,事業所など)から排出する率 が高いと思われるが,全国的にみてもここ数年では,サービス業界・民生のエネルギー消費量の伸び率が著しいことが 特徴である.上記の改正条例は,こういった業界も規制の対象とした都市型キャップ・アンド・トレードであり,ホー ムページ(参考)によれば世界初の試みであるようだ.
 この条例で規制の対象としている事業所は,温室効果ガスの排出量が相当程度大きい事業所(燃料,熱および電気など のエネルギー使用量が,原油換算で年間1 500 キロリットル以上の事業所)である.キャップの基準となる年間排出量は, 2002 ~ 2007 年度までの間のいずれか連続する3 か年度の排出量を平均した値として,事業所の種類によりこの基準か らの削減率が異なる.すなわち削減義務として,5 年間の総排出量が(基準年間基準量× 5 年間×(1-削減率))以下 になることを課しており,この2010 年4 月から5 年を一区切りとして,削減義務が生じている.削減率は,オフィス ビル,官公庁庁舎,商業施設,宿泊施設,教育施設,医療施設などと地域暖房施設は8 %であるが,事業所の全エネル ギー使用量に占める地域冷暖房から供給されるエネルギーの割合が20 %以上の事業所と,工場,上下水施設,廃棄物 処理施設などの上記以外の事業所は6 %と設定されている. この条例には罰則規定があり,5 年間を過ぎた時点で削減 義務量に達しなかった場合,削減義務量の不足分の1.3 倍の排出量の削減命令が出され,さらに命令履行期間が過ぎて も削減ができなかった場合は,事業者に罰金が科せられた上に,違反事業所は公表され,削減義務命令分の排出量を知 事が調達してその金額を請求される.
 ところで,排出量削減の履行は自助努力に加えてトレード制度を利用して実現することもできる.たとえば,超過削 減した事業所からの排出権の購入,都内の中小規模事業所が省エネ対策の実施により削減した量を購入する中小クレ ジット,制限付きではあるが都外の事業所における削減量の加味,再生可能エネルギーを利用することで排出権を購入 することに対応させる再エネクレジット,といった制度が準備されている.また,排出される温室効果ガスと種々のエ ネルギー源から変換される熱源や電力の金銭換算については,以下のweb(参考)内に記載があるようだ.
 この条例の対象になる都内の事業所には,電力消費密度が高いデータセンターや大学,病院などもあるが,業務のエ ネルギー消費の大部分は,照明と空調によるものと思われるので,自助努力として考えられる温室効果ガスの排出量を 減らす手だてとしては,照明を白熱灯からLED 照明に交換したり,熱源としてボイラを利用している場合はCOP の高 い空調設備に交換することで対応することになると思われる.ここで特に問題となるのは,すでに空調,照明に新しい 設備を導入しており,かつ,業務内容により,本質的に電力消費を減らすことができない事業所であると思われる.た とえばデータセンターは,当初より高効率の空調を利用してサーバー類を冷却しており,機器の温度も上げることがで きないので,単純な空調機器の機器変更以外のさらなる工夫を加えて空調負荷を下げる努力が必要となるのではないか と思われる.
 この条例により,低温度排熱の熱源として有効利用や,低温度差発電などの冷凍・空調関連のエネルギーに対する意 識が上がることを期待しつつ,5 年後の状況に一抹の不安も覚える.
 (参考)http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/large_scale/cap_and_trade/index.html

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