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キャップアンドトレード
                             


 温室効果ガスの排出権取引の方式には2種類ある.キャップアンドトレードとベースラインアンドクレジットである. キャップアンドトレードは,「東京都環境確保条例」やヨーロッパの「EU-ETS」が例として挙げられる.これは各企 業(国)に温室効果ガスの排出枠(=キャップ)を定め,排出枠が余った企業(国)と,排出枠を超えて排出してしま った企業(国)との間で取引(=トレード)する方式である.つまり,実際の排出量が排出枠を下回り,余剰分が出る 企業(国)は,排出枠を超えてしまいそうな企業(国)などに対して,余剰分を排出権として売却することができる. 一方,ベースラインアンドクレジットとは,個別の事案において設備導入がなかった場合の仮想の排出量と,設備導 入後の実際の排出量との差が排出権となる方式である.
 キャップアンドトレードの具体的な取組みとして,東京都環境確保条例の概要を説明する.2010年度に東京都は「温 室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を導入して規制を強化する.都内で2020 年度までに2000 年度比25 % の確実な削減を目標とする.削減計画期間として第1 計画期間(2010~2014年度),第2 計画期間(2015~2019年度)と し,2002~2007年度の間の任意の連続する3か年度の平均を基準排出量とする.燃料・熱・電気の使用量の原油換算を 行い,年間1 500 kL 以上のエネルギーを使う事業所は,第1 計画期間において基準排出量の6 ~ 8 %の削減義務などが課 せられる.ここで,基準排出量から削減義務量を減じた排出量が排出枠となる.削減義務の履行のためには,省エネ設 備機器の更新など自ら削減する手段と,主に都内の事業所からクレジットを購入する排出量取引がある.削減義務が未 達成の対象事業所は東京都よりペナルティーが課せられる.
 キャップアンドトレード方式の具体的な取組みとして,東京都は国内外で注目を浴びている.また,東京都は国に キャップアンドトレード方式の全国導入を提言している.今後の東京都の動きや国の地球温暖化対策に向けた政策の 進展により,全国的なキャップアンドトレード方式が具体化されるのも遠くはないと予想される.

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