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うま味(umami)
                             


 「うまみ」には,「うま味」と「旨味」のすなわち,ひらがなと漢字の2 つの表現があるが,実はこの2 つはそれぞれ 意味の異なる用語である.しかし,一般では,どちらも漢字とひらがなの違いにしか認識されないことも多く,よく混 同されている.「うま味」は「甘味」や「苦味」などと同様,味の基本である5 基本味の1 つで,「旨味」は食品の「お いしさ」を表す.
 「うま味」は1908 年東京帝国大学の池田菊苗博士が,昆布の味には「甘味」,「塩味」,「苦味」,「酸味」の いわゆる4 基本味のいずれでもない味があることに気づき,その成分がグルタミン酸ナトリウムであることを発見し,「うま味」と 命名し,第5 の基本味であると報告した.この発見から5 年後の1913 年,池田博士の高弟である小玉新太郎氏が,カツ オ節のうま味がイノシン酸の塩であることを発見した.さらに1957 年にヤマサ醤油研究所の国中明博士が,核酸の1 種 のグアニル酸がうま味を呈することを発見した.その後,グアニル酸が干し椎茸のうま味成分であることが確認されて いる.これらの成分の発見当時もおそらく,うま味と旨味が同様の意味で使用されることがしばしばあったようである. そのようなこともあり,1980年代に入り,当時の日本のうま味研究者が集まり,グルタミン酸,イノシン酸,グアニル 酸の味の名称について検討した結果,おいしさを表現する「旨味」とは区別し,そして発見者である池田の命名を尊重 し,「うま味」と呼ぶことが合意されている.しかし,未だに一般には「うま味」と「旨味」の区別があることすらあ まり知られていないのが現状である.
 一方,欧米では「うま味」の発見からしばらくの間,「うま味」が基本味であることが受け入れられなかった.日本 では各種うま味成分の発見以降,うま味の味覚生理学的,食品化学的な研究は盛んに行われてきたが,2000 年米国の Chaudhari のグループがラットを用いた生理学的実験からうま味のレセプターを発見し,これまで「うま味」には無関 心とされていた海外においての発見は国内の味覚研究者にとってセンセーショナルなものとなった.以後,海外におい てもうま味の味覚生理学的研究は盛んになり,新たなレセプターの発見から,うま味がどのようにして脳で認知されて いくかのメカニズムまで解明されつつある.近年,胃にもうま味のレセプターがあることが発見され,このレセプター から迷走神経を通して,うま味の刺激が脳へ伝わり,食物の消化のコントロールに関与しているという説もある.うま 味を有する物質にはアミノ酸,核酸関連化合物があり,有機酸であるコハク酸のナトリウム塩もうま味があると言われ ている.また,天然のうま味成分であるトリコミン酸,イボテン酸は強いうま味を有する成分であるが,これらはハエ トリシメジやイボテングタケに含まれる毒性を有する成分である.
 昨年(2008 年)は池田博士の「うま味」発見から100 年ということで,各国でうま味シンポジウムやうま味関連の学 会が記念大会として開催された.これらの会では学術的な発表以外にも,「うま味」を多くの人に理解してもらうため の有名シェフによるうま味を生かした料理を味わってみるという食事会も合わせて行われた.今では「うま味」は 「umami」として世界中で共通の用語とされている.

 

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