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ハイドロニューマチックサスペンション
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ハイドロニューマチックサスペンションという乗用車のサスペンションを御存知だろうか? フランスのシトロエン
というメーカーが1954年から綿々と造り続けている,液体と気体を用いたサスペンションである.シトロエン以外にも,
ロールスロイス,ローバー,メルセデスなどが,一時期,特定の車種にこのサスペンションを設定していたこともある.
ハイドロニューマチックサスペンションは,古くは,植物性オイル(LHS)や鉱物性オイル(LHM),最近では化学
合成オイル(LDS)などのオイルが用いられ,そのオイルラインとスプリングの役目をする窒素ガスの入ったアキュム
レータから構成されている.通常の機械式サスペンションのスプリングの役目を窒素ガスが行い,オイルはガスの体積
変化と連動し合いダンパーの役目を果たしている.ハイドロニューマチックのシトロエンには,通常,各車輪には,バ
ネとダンパーの役目を行うスフィアと呼ばれる窒素ガスとオイルで満たされている球体が装着されている.スフィア内
部は,窒素ガス側とオイル側はゴムのダイヤフラムで隔離されている.オイル側は車体のオイルラインに繋がっており,
エンジンにより駆動される高圧ポンプからのハイプレッシャーオイルが送り込まれている.このオイルは,歴代のハイ
ドロシトロエン(DS,GS,CX,BX,XM,Xantia)では,サスペンション以外にも,ブレーキの油圧,ステアリング
のアシスト,ギアチェンジ(DS)の動力にも使われていた.しかし最近のハイドロシトロエンは,横滑り防止装置な
どの導入のせいなのかブレーキは独立した油圧系である.
哺乳動物に例えてみると,心臓(ハイプレッシャーポンプ)で作り出された血液(高圧オイル)は,血管(オイルラ
イン)を通り,各臓器(各動作部)へ送られる.古いシトロエンは,エンジンを停止すると駐車中にはオイル圧が抜け,
車高が下がる.あたかも愛犬がへたりこんだような姿勢で,再びエンジンをかけると油圧が上がるので,車高もムクム
ク起きだしたかのごとく上がってくる.なんとも動物的である.
このサスペンションの利点は,通常走行ではバネレートを低くできるので,揺れの周期が長くなり乗り心地が大変良
い.車高調整機構を持つので,乗員,積載量に関係なく車高が一定である.カーブでも姿勢変化が少ない.同じ油圧を
使っているのでサスの動きに応じたブレーキの動作が行える,などいろいろある.しかし,このシステムの最大の欠点
は,同じ油圧ラインを使っているので,どこか一カ所で漏れや不具合が生じると,すべてのシステムに影響を及ぼす点
にある.たぶん,この点だけでも,世界中の自動車メーカーが採用をしない最大の問題点である.シトロエンが,誰が
何といおうとこのハイドロサスペンションをやめないのには,シトロエンの技術者の魂を感じる.そういった意味では,
ロータリエンジンのマツダや水平対向エンジンの富士重工も技術者として尊敬するに値するメーカーだと思う.かくな
る私も,シトロエンの技術者の魂を感じたく,ハイドロシトロエンを新車から14 年間も飼育しているのである.
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