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産地判別技術
                             

 近年,牛肉,ウナギ,あさり,野菜などに関する,産地や品種の偽装問題が多発している.このような偽装問題の背 景には,消費財や食料品などにおける産地表示が一種の心理的信頼に結びついていることがあり,安価な産地の品物に 対して有名な産地表示をすることで高値で販売できるためである.特に産地偽装されやすい物は,肉類,魚介類,農産 物である.
 産地判別技術は,80年代にヨーロッパにおいてワインの産地偽装事件が多発し,これを防ぐために開発された.日本 においては,平成13年に食品の産地表示が義務化されたことに伴い,産地偽装に対応するために各種食品の産地判別技 術が開発された.現在,農林水産消費安全技術センター(FAMIC)で,数々の産地判別技術が研究開発され,実際の監 視に利用されている.
1. 産地判別技術
 食品の偽装は大きく分けて品種偽装と産地偽装がある.判別には,無機元素,同位体比,有機成分および遺伝子など の差異が指標として行われている.
(1)品種判別
 品種判別は,マーカー遺伝子を指標とする方法が主流である.PCR-RFLP 法によるクロマグロとその他のマグロの判 別方法などが開発されている.
(2)産地判別
 品種判別に対し産地判別は,一般的に種が同じものを判別対象とすることが多いので遺伝子マーカーが使えない.一 般的に無機分析,DNA型鑑定,有機成分分析などがある.
・無機分析
 現在,日本で開発されている産地判別技術は,そのほとんどが無機成分を指標としている.これは生物が生育した 環境により元素組成が異なることを利用しており,無機成分を高周波誘導結合プラズマ法(ICP法)により測定し判別 する.
・DNA 型鑑定
 対象生物が系群を形成している場合は,産地によりDNA 型が異なるので,DNA型鑑定が有効である.
・有機成分分析 対象生物が生活する場所によって栄養とするものが異なり,脂肪酸組成,アミノ酸組成および有機酸組成などに差 異がある.この差により判別する.
・その他 環境水や飼料などの影響による安定同位体比の差異による判別や,よく訓練した犬などを用いる官能検査がある.
2. 産地偽装への対策
 産地偽装に対して,国は市場での立ち入り調査を行うとともに,各種判別技術を用いた検査をもとに,表示方法の適 正化指導を行っている.同時に,ブランド維持のため各都道府県において,産地表示の公正化が図られている.
・産地判別検査 牛肉,豚肉,あさりなど,市場におけるサンプル調査を行う.
・表示方法の適正化指導
 米,真珠など,内容物に産地のものが少量しかないのに,その産地で生産された物のように見せかける行為に対し て,産地判別検査を含め,指導,適正化を行う.
・地域ブランド化による産地の固定化
 三重ブランドのように,生産から出荷までの工程にルールを設け,県などの地方自治体,漁協,農協などの各種団 体の監視のもとに生産された物に対して,証明書を発行する. このように多くの対策が取られているが,偽装は後を絶たないのが現状である.食品に貼られたラベルが信用できる かどうかを判断するには,生産現場まで確実にたどれる仕組みが必要である.しかし現状では,産地から消費者までの 間で,だれがどのようにそのラベルの内容を保証しているかは不透明である.トレーサビリティーは,食品流通におけ る履歴と出自を検索することを可能にした仕組みであり,早い普及が望まれる.

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