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有機エレクトロルミネッセンス
(Organic Electro-Luminescence,有機EL)
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薄型・軽量化で進化を続ける電子ディスプレイの中で,次世代ディスプレイの本命として有機EL ディスプレイが
近年注目を集めている.薄型携帯電話や厚さ数ミリの超薄型テレビでは小型のものから実用化されており,今後の有機EL
市場はディスプレイだけでなく薄型照明への応用も含め,2012年に数千億円から一兆円を超える市場規模になると予想
されている.開発は日本,韓国,ドイツの化学企業,電気家電企業,印刷企業を中心に実用化に向けて活発化している.
今回は有機EL の簡単な原理と製造方法について概説し,製造工程ではクリーンルームが必要となることを紹介する.
有機EL は,有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode,OLED),発光ポリマー(Light Emitting Polymer,LEP)
とも呼ばれ,発光層が有機化合物のフィルムから成る発光ダイオード(LED)である.日本では伝統的に有機EL(ゆう
き・いーえる)と呼ぶことが多い.
有機ELの発光原理はホタルの発光現象とほぼ同じ仕組みである.ホタルの発光は体内の化学反応で生じるエネルギー
により,ルシフェリンという有機物質が分解されてエネルギーが高くなる.それが再びエネルギーの低い状態に戻る時
に発光現象を伴う.この分子の「励起状態」から「基底状態」に戻る際の発光現象をルミネッセンスといい,有機EL
はこのルミネッセンスを電気的に行うものである.有機EL では,プラスとマイナスのガラス基板に挟まれた厚さ数百
ナノメートルの有機化合物(発光層)が,電圧により励起され,基底状態に戻る時のエネルギー差で発光する.
有機ELに使用される有機化合物は,大別すると低分子と高分子に分けられる.最初に発光の原理が確認されたのは低
分子のものだが,生産性やディスプレイ大型化の要求から,最近では高分子材料も開発が活発になっている.
低分子材料を用いた製造方法は,真空蒸着法でガラス上にマスキングを施して製造されている.蒸着温度は分子が気
体になるような高温にする必要があるが,有機分子が分解するほど高温にはできないので温度管理が難しい.さらに蒸
着の際に,ガラス基板と金属マスクの間で熱膨張率の違いから大きなサイズほど成膜ムラが生じやすく,ディスプレイ
大型化の課題となっている.最近発売になった携帯電話や超薄型有機EL テレビは,低分子材料が用いられている.
一方,高分子材料は液体に溶かすことが可能であり,インクジェット法やロール・ツー・ロール法(ロール状に巻い
た基板に回路パターンを印刷し,封止膜で張り合わせてから,再度ロールに巻き取る生産性の高い回路基板の製造方法)
などが適用できる.これは大量生産に向くことはもちろんのこと,大型ディスプレイの実現や,プラスチック・フィル
ム上に製膜でき,フレキシブルなディスプレイが製造できるなど,電子ペーパーなどへの応用で注目されている.これ
らのことから,今後は実用に耐えられる高分子材料の開発が待たれている.
有機ELの長所として,①薄い,②発色が良い,③低消費電力,④明るい,などがあり,短所としては,発光層の有機
化合物が通電および酸素や湿気の影響により徐々に劣化して輝度が低下することが挙げられる.この耐久性に関する問
題は市販化へ向けての大きな課題であるが,材料の研究と空気から遮断する封止技術により急速に改善されつつある.
製造工程に注目すると,現在は生産数が少なく大きな話題になっていないが,ディスプレイとしての有機ELは半導体
と同等レベルの製造環境が求められると考えられる.特に本命視される高分子材料を用いる場合は,室内環境中での製
造となることから,ほこりや塵埃,あるいは温度や湿度が製品の歩留まりを大きく左右すると予想され,生産技術まで
含めた今後の動向に注目が集まっている.
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