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バイオエタノール
                             


 2001 年6 月,米国農務省のBadal C. Saha 博士の訪日で,農産廃棄物に大量に含まれるセルロース,ヘミセルロースか らエタノールへの酵素転換が注目された.博士らはABB(1998 年)の論文1)で,遺伝子組換え微生物を使用した未利 用の穀物からのエタノール生産実用化の鍵となるセルラーゼ酵素の問題点をまとめている.この論文では,米国のエタ ノール生産量(主な原料はトウモロコシ澱粉)は10 億3 千万ガロンであるが,2010 年は約120 億ガロンと予測されてい る2).世界のエタノールの生産シェア(2007年)は,米国が41.7%(主にトウモロコシ),ブラジルが32.3%(主にさと うきび)である2)
 2006 年,米国はバイオエタノールの利用へと大きく政策転換をし,バイオ燃料の本格的導入が始まった.日本でも 経済産業省から「新・国家エネルギー戦略」が発表されている3).このエタノールブームは原油価格高騰が背景にある が,「カーボンニュートラル」としての環境に優しい技術であり,化石燃料から二酸化炭素放出量を削減するための切 り札的実質的手段として注目されている4).バイオマスは再生可能な生物由来の有機性資源であり,太陽のエネルギー を使って生物が生合成するので枯渇の心配が無いとされている.
 バイオマス・ニッポン総合戦略(2002年)では,地球温暖化の防止,循環型社会の形成,戦略的産業の育成,農山村 の活性化が柱になっている.日本ではブラジルや米国のようにトウモロコシやさとうきびを栽培するのは現実的ではな いので,生産調整で使われていない休耕田や耕作放棄田を中心にイネを栽培して,玄米だけでなく籾殻やワラも含めて ホールクロップ利用してバイオエタノールを作れば,温暖化対策だけでなく,国土保全や農村振興を同時に進めること ができると考えられている.「イネのバイオエタノール化による持続的社会の構築」が「イネイネ・日本」プロジェクト などによって推進されている.イネからのバイオエタノール導入の効果としては,イネは作物としてのポテンシャルが高 く,栽培・収穫技術が広く普及していて集荷のためのインフラも整備されており,高度な育種技術と最近のイネゲノム の成果の活用によりエタノール生産性の高い新規のイネの開発も期待されることである.反収増加に伴い減反した土地 を持続性の高い生産基盤として維持できることは,食料安全保障の政策面からも重要である5)
 一方で,最近バイオ燃料の可能性とリスクに関する論文も多く見られる6).「科学としての研究,職業としての研究」 としての「バイオエタノールのリスク論争」は,バイオエタノールの政治的背景,経済的裏付け,社会性などについて 多くの示唆に富んでいる.
 E100(エタノール100 %)まで対応可能なFFY(フレックス・フューエル車)は,1979 年に一般乗用車がフィアット 社から登場している.米国ではMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)がガソリン添加剤としてE10,E85 の直接混合を急増させている.
 
文  献

1)B. C. Saha, B. S. Dien and R. J. Bothast Fuel ethanol production from corn fiber, current status and technical prospects, App.Biochem. Biotech. 70-72,115-125(1998).
2)加藤信夫アグリコクーン公開セミナー(平成19 年7 月26 日).
3)掛林誠バイオサイエンスとバイオインダストリー,65(7),370-373(2007).
4)伊藤公紀,本藤祐樹現代化学,2007.10,52-55(2007).
5)岩本睦夫「食料とエネルギー問題に関わる水問題」シンポジウム要旨,pp.13-22,(2007).
6)西村肇現代化学,2007.10,13-19(2007).

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