エジェクタとは蒸気などをノズルから噴流し,噴流部出口の負圧を利用して他の流体を吸引する流体ポンプで,ガス
設備など色々な分野で利用されている.
従来の冷凍サイクルは,高圧の液冷媒を膨張弁やキャピラリチューブなどの減圧装置で断熱膨張させ,低温熱源を得
ている.しかし,その断熱膨張の過程において,多くの運動エネルギーが渦となって失われ効率が低下する.一方,エ
ジェクタサイクルでは減圧装置に流体ポンプであるエジェクタを採用することにより効率低下を防止している.エジェ
クタの構成概要を図1に示す.ノズル部でコンデンサ出口の高圧冷媒を減圧させるとともに,エバポレータ出口の冷媒
を吸引し,混合部で減圧された高速冷媒とエバポレータ出口から吸引した低速冷媒を混合しながら圧力を上昇させ,さ
らに流路面積を拡大したディフューザ部で流速を低下させて圧力を上昇させる.エジェクタの先に気液分離器を設置し,
冷媒を気体と液体に分離している.分離された液冷媒をエバポレータに流し,気体冷媒は圧縮機に吸引される.以上の
過程にて,エジェクタは膨張時の渦の発生を抑制して等エントロピー膨張させることで,これまで渦発生で損失してい
たエネルギーを冷媒の運動エネルギーとして回収するとともに,回収した運動エネルギーを混合部およびディフューザ
部で圧力エネルギーに変換して昇圧することで,圧縮機の吸入圧力を増加させ効率が向上する.また,エバポレータ入
口の冷媒状態は液体となるため,エバポレータ内の圧力損失低減および熱伝達率増加などの効果により,エバポレータ
の性能も向上でき,大幅なCOP の改善が図られる.古くから,エジェクタを冷凍機のような気液2 相流体に適用するた
めの研究は行われていたが,以下の大きな課題があり実用化されていなかった.
1)液体が混入すると流体の加速・減速がしにくく,単相流と比較して著しく効率が低下する.
2)エジェクタ内部で流速が大きく変化するため,効率向上にはエジェクタ構造の精密な加工精度が要求される.
このため,エジェクタを冷凍サイクルに適用するには,エジェクタ内部を
流れる2相流の流動状態の解析技術や精密な加工技術が要求されるが,近年,
これらの技術の確立により,車搭用冷凍機や自然冷媒(CO2)ヒートポンプ
式給湯機に適用されるようになった.
エジェクタサイクルは,エアコンや冷蔵庫など冷凍空調機器への幅広い応用が可能であり,今後は様々な機器への展開が予想される.
参考文献
㈱デンソーホームページ・「環境技術開発物語」
注)“エジェクタサイクル“は,㈱デンソーの登録商標です.(第4739309 号)
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