エネルギーシステムの効率性評価,あるいは電力専用システムとコージェネレーションシステムの省エネルギー性比
較などを行う場合は,燃料の高位発熱量と低位発熱量の使い分けを明確にしておく必要がある.冷凍空調分野の身近な
事例としては,直焚き吸収冷温水機の成績係数を算出する際の熱エネルギー投入量の計算に使用される.今回は燃料の
高位発熱量と低位発熱量について解説する.
1. 高位発熱量と低位発熱量
燃料は化学的なエネルギーを内蔵しているが,そのエネルギーはそのままでは利用することができない.そこで,燃
料を燃焼することにより化学的エネルギーを熱エネルギーに変換し,その熱エネルギーを有効に利用している.
ある一定の状態(たとえば,1気圧,25℃)に置かれた単位量(1 kg,1 m3,1 L)の燃料を,必要十分な乾燥空気量で
完全燃焼させ,その燃焼ガスを元の温度(この場合25℃)まで冷却したときに計測される熱量を発熱量という.燃焼ガ
ス中の生成水蒸気が凝縮したときに得られる凝縮潜熱を含めた発熱量を高位発熱量といい,水蒸気のままで凝縮潜熱を
含まない発熱量を低位発熱量という.
発熱量は熱量計で測定される.熱量計は燃料の燃焼熱を熱量計内の水に吸収させ,その水の保有熱量の増加分によっ
て燃料の発熱量を測定するものである.したがって,熱量計の内部では燃焼によって生成された水蒸気は凝縮するため,
高位発熱量が測定される.低位発熱量は熱量計で測定された高位発熱量から水蒸気の凝縮潜熱を差し引いたものであり,
次式で算出する.
低位発熱量=高位発熱量-水蒸気の凝縮潜熱×水蒸気量
高位発熱量(HHV : Higher Heating Value)は高発熱量,または総発熱量(GCV : Gross Calorific Value)とも呼ばれ,
低位発熱量(LHV:Lower Heating Value)は低発熱量,または真発熱量(NCV:Net Calorific Value)とも呼ばれている.
熱量計算に使用する基準発熱量は,国や統計,あるいは機器によって異なるので注意が必要である.
高位発熱量が使用されている主なものを以下に示す.
(1)日本の総合エネルギー統計
(2)日本の火力発電所の発電効率
(3)日本のCO2 排出量計算に使用される発熱量
(4)日本の都市ガスの取引基準
低位発熱量が使用されている主なものを以下に示す.
(1)ボイラ設備の熱効率
(2)ディーゼルエンジン,ガスエンジン,ガスタービンなどの原動機の熱効率
(3)コージェネレーション設備の性能表示
(4)国際エネルギー機関(IEA)のCO2 排出量計算に使用される発熱量
工業用熱利用設備においては,燃焼ガスを水蒸気の飽和温度以下まで低下させようとすると,凝縮水による熱交換器
の腐食などが懸念されるため,一般的には,燃焼ガスの水蒸気の凝縮潜熱まで利用することはされていない.そのため
熱効率を定義する場合に,燃料の発熱量としては低位発熱量を使用することが多い.
高位発熱量,低位発熱量のいずれを用いるかによって効率の値が異なり,特に水素の含有率の多い都市ガスを燃料
とするときには,低位発熱量基準のほうが高位発熱量基準より約1 割,見かけ上の熱効率が大きく表示されるので注意が
必要である.代表的な燃料の高位発熱量と低位発熱量の比率を表1に示す.
表1 代表的な燃料の高位発熱量と低位発熱量の比率
| 灯油 | A重油 | 都市ガス13A |
高位発熱量 | 46.5 MJ/kg | 45.2 MJ/kg | 45.0 MJ/m3(N) |
低位発熱量 | 43.5 MJ/kg | 42.7 MJ/kg | 40.6 MJ/m3(N) |
低位発熱量/高位発熱量 | 0.94 | 0.94 | 0.90 |
2. ガス焚き吸収冷温水機の成績係数
吸収式冷凍機の成績係数(COP)は「冷凍能力/エネルギー投入量」で表わすが,特にガス焚き吸収冷温水機では高
位発熱量を用いて算出した成績係数を表記する場合と,低位発熱量を用いて算出した成績係数を表記する場合がある.
慣習的に高位発熱量基準の成績係数は次式で算出する.
高位発熱量基準の成績係数=冷凍能力/(ガス消費量×ガス高位発熱量)
吸収式冷凍機のJIS 規格に規定されている成績係数は,低位発熱量を用いて次式で算出する.
JIS 基準の成績係数=冷凍能力/(ガス消費量×ガス低位発熱量+消費電力)
消費電力は内蔵電動機および制御回路で消費する電力を示す.
また,成績係数以外の性能評価指数として省エネルギー率があり,初期の二重効用形ガス焚き吸収冷温水機を基準と
したガス消費量の低減率を示す.省エネルギー率は次式で算出する.
省エネルギー率(%)={1-(ガス消費量/冷凍能力)比較する冷温水機/(ガス消費量/冷凍能力)基準となる冷温水機}× 100
基準となる「(ガス消費量/冷凍能力)基準となる冷温水機」の値は,(ガス消費量(m3/h(N))/冷凍能力(USRT))の単位系
では,都市ガス13 A(高位発熱量45.0(MJ/m3 (N)))の場合0.376 7(m3/h(N)/USRT)を,高位発熱量基準の熱エネルギ
ー投入量でガス消費量を表わした(ガス消費量(kW)/冷凍能力(kW))の単位系では1.339(kW/kW)を使用する.
表2にガス焚き吸収冷温水機の高位発熱量基準の成績係数,JIS 基準の成績係数ならびに省エネルギー率を示す.
表2 ガス焚き吸収冷温水機の高位発熱量基準の成績係数,JIS 基準の成績係数,省エネルギー率
成績係数(高位発熱量基準) | 1.6 | 1.35 | 1.2 | 1.1 | 1.01 |
成績係数(JIS基準)※1 | 1.7相当 | 1.5相当 | 1.32相当 | 1.21相当 | 1.11相当 |
省エネルギー率 | 53% | 45% | 38% | 32% | 26% |
※1 機器により消費電力が異なるため,上記は目安とする.
最新の大手ガス会社や吸収式メーカーの製品カタログでは成績係数の表示がされており,ガス会社のカタログでは高
位発熱量基準の成績係数で,吸収式メーカーのカタログではJIS 基準の成績係数で表記されていることが多い.ちなみ
に,国土交通省が発行する公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)ではJIS 基準の成績係数が採用されている.
最近,価格変動の激しい液化石油ガス(LPG)使用量を低減すべく標準熱量を引き下げるガス事業者が増えており,
使用している高位発熱量の値にも注意が必要である.
参考資料
1)田中俊六「省エネルギーシステム概論」,pp.22―24,オーム社,東京(2003).
2)大屋正明,山崎正和「エネルギー管理士試験講座 燃料と燃焼」,pp.185-189,省エネルギーセンター,東京(2006).
3)糀谷純一省エネルギー,56(8),17(2004).
4)JIS B 8622-2002 吸収式冷凍機.
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