曲り管での二次流れ
曲り管での二次流れ

  曲り管とは,管軸方向に流れの方向が変化する管のことで,実際の配管ではベンドとエルボの管継手や直管をループ 状に巻き取った螺旋管を総称している.ベンドとエルボの管継手での曲がりは,規定された角度での部分的な方向転換 であるが,螺旋管の場合は,連続して方向が変化している.より具体的な螺旋管の例としては,ホースリールのドラム に巻いたホースの形状が,冷媒配管中では,長いキャピラリーチューブを巻いて束ねたときの形状が挙げられる. 曲り管では,流体に遠心力が働く.流速の大きい管中央部の流体部分に作用する遠心力は,壁面付近の流速の小さい 流体部分に働くそれよりも大きいので,中央部の流体は曲がりの外側へ押しやられ,管壁近くの流体は壁に沿って曲が りの内側に回り込むこととなる.また,断面内の壁面の圧力分布は一様ではなく,圧力は曲がりの外側の壁で高く,内 側の壁では低くなる.このため,管軸に垂直な断面内に図1のような1 対の循環流れが生じる.これを二次流れという. 曲がりの外側では,曲がりに近づく流れは次第に圧力が上昇することとなり,曲がりの入口部ではく離が起こる.曲が りの内側では圧力が低く,曲がりが終わると遠心力はなくなり,再び圧力が上昇してついには曲がりの後ではく離が起 こる1-3).ベンドでの圧力損失の増大は,これらのはく離に基づくものとして取り扱われている.すなわち,ベンドで の圧力損失は,式(1)のように管摩擦と方向転換による損失の和で表される.
  ΔP=(ζ+λl/d)ρυ2/2=ζbρυ2/2 (1)
    d :管の直径 l:曲がりの中心線に沿う長さ λ:管摩擦係数
    ζ:方向転換による損失係数
    ζb=ζ+λl/d :摩擦損失を含めた全損失係数
  ベンドのζb は,伊藤の式1,2)(2-1)・(2-2),エルボのζはワイスバッハの 式(3)で算出できる3 , 4 ).また,第5 版の冷凍空調便覧(第1 巻基礎編 p.333)には,円形および長方形断面のベンドの損失係数が示されている. 断面が円形の螺旋管についての管摩擦係数λc は式(4-1)~(4-4)5)で与えら れる.その場合の層流と乱流を判別する最小臨界レイノルズ数Rec は直管の それ(2300)よりも大きい.
  ベンドにおける全損失係数ζb
    Re(d/R)2 < 364 ζb= 0.0515αθRe- 0.2 (R/d)0.9                      (2-1)
    Re(d/R)2 < 364 ζb= 0.0431αθRe- 0.17 (R/d)0.84                   (2-2)


    エルボにおける損失係数 ζ= 0.946 sin2 (θ/2)+ 2.05 sin4 (θ/2)     (3)
    ここで,Re=υd/ν,θは度.αは下記の式.
    θ= 45 °:α= 1 + 5.13(R/d)- 1.47
    θ= 90 °: R/d< 9.85        α= 0.95 + 4.42(R/d)- 1.96
    θ= 90 °: R/d> 9.85        α= 1
    θ= 180 °:α= 1 + 5.06(R/d)- 4.52
螺旋管の管摩擦係数λc
以下において,a = d/2 :管の半径,R:管中心軸の曲率半径
    Re=υd/ν,λs:直管の摩擦係数
    螺旋管での管摩擦係数についての著者の実測例を以下に示す.これは,全長l0 と内径d の比l0/d が4 種類のポリウレタ ン製の透明チューブ(内径5 mm では長さ9 m と13 m,内径6 mm では長さ7 m と11 m の計4 種類)を用い,全長の8 割 程度を直径約365 mm の円状に巻き取って束ねた螺旋管であり,実験では精製水と40 %濃度エチレングリコールブライ ンを螺旋管に強制的に流した時の圧力損失を計測し,管摩擦係数を求めた.管摩擦係数の実験値λexp は,式(5)に示 すように,直管同様に全長を基準として算定した.λexp は,図2に示すようにレイノルズ数(以下,Re 数と略す)が 5000 から15000 の領域ではBlasius の式と± 15 %以内で一致するが,2000 以下のRe数域では層流の式(λ= 64/Re)に対 して1.6 倍程度となっている.実験では式(4-2)から算出される最小臨界Re数は5100 ~ 5500 にあり,それを境に低Re 数領域では,圧力損失の直管に対する増大率が大きいことがわかる.
    
λexp2ΔP/ ρυ2・(l0/d)}    (5)
    
λcal =λc4・lc/l0 +λs・ls/l0    (6)
    ここで,
    l0 :管の全長,lc:巻取り部の管長,ls= l0 - lc:直管部の管長,
    λc4:式(4-1)~(4-4)による巻取り部の計算値,λs:直管部の計算値
    (層流λs= 64/Re,乱流λs= 0.316 4/Re0.25)
  図3は管摩擦係数の計算式(4-1)~(4-4)を用いて式(6)から算出した計算値と実験値とを比較したものであり, 全実験データ1 467 点は計算値とほぼ± 15 %以内で一致している.圧力損失の計測には,2.5 級のブルドン管式圧力計2 個を用いており,管摩擦係数の実験値の不確かさは,最大± 15 %と見積られた.したがって,計算は計測の不確かさ 以内で実験を再現していると言える.
    次に,90 °ベンドにおける2 次流れを観察した例を示す.これは,蒸発器出口から圧縮機に至る吸込み配管における 冷凍機油の流れを把握することを目的として,水平位置から曲げ半径25 mm の90 °ベンドを経て垂直に1.6 m 立ち上が る内径7.5 mm のガラス管内での空気/オイルの二相流を観察した結果である.オイルはVG1 ~ 320(VG :粘度グレー ド,40 ℃における動粘性係数をmm2/s の単位で表わした値)の5 種類を使用し,その流量は0.2 ~ 3.6 g/min,空気は見 かけの流速で3 ~ 15 m/s の範囲とした.
  観察された3 つの流れの模式図を図4に示す.図の(a)は,空気流速が5 m/s 以下の場合であり,水平管内のオイル 表面には,さざ波が立った.オイルは90 °ベンドの途中まで来ると,空気の2 次流れにより管底部から頂部に向かって 壁面に沿ってまくれ上がり,液膜となって曲がりの内側の管壁を登り,曲がりの終わり付近に達すると,液滴を発生し た.空気流速が低い場合には,液滴は垂直部の途中までしか飛翔せず,管壁に付着して液膜となる.その液膜は空気流 速が低いため,流下しようとするが,下から来る空気に押されて液膜下端が膨れ上がり,空気の通路を塞ぐ形となると, 再び液滴が発生した.この繰り返しにより,オイルが垂直管を徐々に上るという流れが観測された.空気流速が5 m/s 付近まで高くなると,90 °ベンド部で発生する液滴は一挙に垂直管1.6 m を飛翔し,途中の管壁にはまったく付着しな い流れとなった.図の(b)は空気流速が5 ~ 6 m/s の場合で,オイルは曲がりの外側の壁も這い上がるようになり,曲 がりの終わり近くで管軸とほぼ垂直な断面で管周方向にリングを作り,それがリップルとなって次々と上昇していく. 垂直管の途中であるリップルの移動の勢いが弱まると下から来るリップルと合体して液膜が局所的に厚くなり,空気流 路が狭まることによって空気の流速が高まるため,リップルの上昇速度が復元する.空気流速が6 m/s を超えると,図 の(c)のように水平部のオイルも環状流に近づき,垂直部のリップル間隔は均一化してくる.空気流速が高くなると, 水平部での環状流化に伴ってベンド部における管底部から頂部への液膜のまくれ上がりは見られなくなるが,リップル の形成は(b)と同様である.高粘度のVG320 の場合には,空気流速が6 m/s 以下では図の(a)のような液滴発生が見 られず,スラグ流に近い状態となった.また,空気流速が6 m/s 以上では,図の(c)とほぼ同じ流れとなり,大きな違 いはなかった.
  垂直管内のオイルの占有体積は,空気とオイルの供給を停止してベンド入口の水平部を閉止すると,管内のオイルが 流下して集まるので外部から液長さを測定することによって計測できる.その体積を管の長さと周長の積で割り算する と実験中のオイルの平均膜厚が得られることから,管内のホールドアップが評価できる.その値はオイル流量にはあま り依存せず,高粘度になるほど増加し,VG320 ではVG1 に対して約2 倍となった.VG1 でのホールドアップは空気流 速が6 m/s の場合は15 %,15 m/s の場合は,6 %であった. 圧縮機への吸込み管の管径は,冷媒蒸気流速から決定し,横走り管で3.5 m/s 以上,立 ち上がり管では6 m/s 以上を確保すること6)とされている.冷媒蒸気の密度は空気のそれ より大きいため,吸込み管でのオイルの流れは,空気での観察結果に比べて,より活発で あろうと思われる.観察結果と単純比較すると,冷媒蒸気流速の6 m/s は,垂直管でのオ イル流れを環状流化するための基準値と考えられる.また,ベンドの2 次流れによって, 液滴やリップルの発生が起こり,それらがオイルの流動状況に基本的な影響を与えていると予測される.
文  献

1)富田幸雄「水力学-流れ現象の基礎と構造」,pp.131―132,実教出版,東京(1982).
2)松永成徳,富田侑嗣,西 道弘,塚本 寛「流れ学-基礎と応用」,pp.84―87,朝倉書店,東京(1999).
3)古川明徳,金子賢二,林秀千人「流れの工学基」,pp.88―90,朝倉書店,東京(2000).
4)日本機械学会「機械工学便覧 基礎編 A5 流体工学」,pp.78―79,丸善,東京(1999).
5)同上,p.84.
6)日本冷凍空調学会「上級標準テキスト冷凍空調技術 冷凍編」,pp.148―179,日本冷凍空調学会,東京(2000).
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