触媒“白金”
プラチナという名でなじみのある白金は貴金属として重要なものだが,科学的な見地からもいろいろな用途に使える
大変価値ある物質である.
白金は銀白色の金属で,装飾品としての価値の高い金属である.その大きな理由は反応性の低さにある.銀ならば体
内のイオウと非常に反応しやすく,しかもイオウと反応すると黒く変色してしまうが,白金は絶対にイオウと反応する
ことはなく,ほぼ永遠に美しさを保つことができるため,特に肌に直接触れるような指輪などの装飾品として価値があ
る.
白金は自分自身は他と反応しにくいが,自分自身は変化しないで他のものを反応させる不思議な力をもつ金属である.
その例が白金の触媒性能である.触媒とは,物質を活性化する働きがあり,温度を上げなくても反応を進行させること
ができ,反応式には出てこないが,反応には必要なものである.
現在,触媒用としての白金は主に,車の排気ガス浄化用に利用されて
いる.排気ガスは,有害な各種ガスを含み,濃度・温度が様々に変化するが,排ガス中のNOx は酸化雰囲気では白金触媒上で酸化され,還元
雰囲気では,白金触媒上で還元ガス(CO,HC など)と反応し,窒素に還元される.白金触媒上での酸化と還元を行うことにより,有害な
NOx,CO,HC を無害な物質にし浄化しているのである.浄化率は新品では90 %もある(図1).
また今一番話題なのが燃料電池用触媒として使われる白金である.燃
料電池では2 つの電極のことを燃料極と空気極と呼んでいる.図2に示すように燃料極に水素,空気極に酸素を供給する.燃料極では水素をイ
オン化し,水素イオンと電子にする必要がある.物質は通常,簡単にはイオン化しないが,白金などの触媒を塗布した電極上で,水素は水素イ
オンと電子になる.水素イオンは電解質を通って空気極に,電子は外部回路を流れて空気極に移動し,それによって電流が発生する.空気極で
は,酸素と水素イオンと電子が白金触媒上で反応し水となる.
現在もっとも効率よく触媒の働きをするのが,白金なのである.
人間に有害な物質を浄化したり,エネルギ-のクリ-ン化に役に立ってくれる白金だが,問題はコストと埋蔵量である.表1のように価格は銀の100倍を超え,
金よりも高い.現在ではまだ年間使用量が少ないため200年くらいもつ計算だが,もしも金なみに使われ始めたらあと数十年しかもたないといわれている(表2).
白金はおもに南アフリカで産出されているが現在約1/4は車用に使用されている.
白金は,このように高価なため代替材料がいろいろ検討されている.特に燃料電池が市場に普及するかどうかは,触媒“白金”に代わるコストの安い代替材料
が見つけられるかどうかにかかっているといっても過言ではない.
白金は他にも高温に耐え,磨耗が少なく,しかも化学反応に強いという特性を
活かして,いろいろの用途に使われており,白金は金属の王様といえる.
(冷凍機分科会)
参考文献 *社会地球科学(岩波講座地球惑星化学14,1998 年)
**日本化学会編化学便覧,国立天文台編理科年表1999 年)
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