99    地球温暖化対策推進大綱  


     
  これは,去る3月19日政府が策定した「新地球温暖化防止対策」で,京都議定書において定められた「温室効果ガスの削減目標('08~'12年に'90年比6 %)を達成するための新推進大綱」である.内容は,国民の総力を挙げて対応せざるを得ないというものになっており,近く「議定書批准案」と併せて「地球温暖化対策推進法改正案」が国会で批准される予定である.  
  国内の温室効果ガス(主にCO2)は約90 %が化石燃料から排出されるが,これをいかに抑制するかが新大綱の核心である.  
  この排出量は,'00年度対'90年度比10 %増であり,これを議定書における目標達成のため,'10年度に'90年度と同水準(増分を0)にしようとするものである.すなわち'98年の大綱によると同比は7 300万トン(CO2換算,以下同じ)増になるため,これを新大綱(追加対策)によって削減するよう策定したものである.  
  内訳は,省エネルギー,新エネルギー,燃料転換などによりそれぞれ,2 200,3 400,1 800万トンとしている.また部門別では,産業と民生の減少分('10年度対'90年度比-7 %;46 200万トンおよび-2 %;26 000万トン)で,運輸の増加分(同比+17%;25 000万トン)を相殺する策定である.  
  更に具体的な削減量は示されていないが,原発の推進や廃棄物などから生じる温室効果ガスの抑制により同年比0.5 %削減,温室効果の大きい「代替フロン」は目標を'95年度比2 %増に抑える.この結果として,目標年に排出される温室効果ガスの総量は1.5 %増にとどまるという内容になっている(図1参照).
図1 温暖化防止対策の全容
1 国民の努力……削減目標1.8 %  
  これは人々の価値観,社会経済システムあるいはライフスタイルが,温室効果ガス排出に大きくかかわる問題であるため,市町村などに「地球温暖化対策地域協議会」を設置,省エネルギー製品の情報提供や建物の断熱性,照明・冷暖房の効率を調査し,費用対策効果などについて助言しようとするものである.  
  また「革新的エネルギー技術開発」(送電ロスを削減するなど)により0.6 %削減し,併せて2 %減を目指したいとしている(表1参照).
2 森林の吸収効果……削減目標3.9 %  
  '01年の「森林・林業基本計画」において,国内の森林(総面積2 510万ヘクタール)を整備し,CO2を4 767万トン(3.9 %)を削減(吸収)させ,更に,都市部の緑化を図り28万トン(0.02 %)の削減を見込んでいる.
3 京都メカニズム  
  仮に,目標達成が不可能な場合,議定書は他国の「排出枠」の買い取りも認めている.
  すなわち
① 排出量取り引き;森林が多い国の余剰枠を買い取ることによって,それを自国の削減分に換算することができる.
② 共同実施;他国と取り組んだ「削減事業」において,生じた余剰分は売買できる.
③ クリーン開発メカニズム;発展途上国の排出削減や植林事業に参加し,それによって生じた削減量を獲得できる.  
  ことなどの仕組みがあり,民間事業者も参加できる.これらは新大綱の削減分に明記されていないが,計算では-1.6 %分になる.
4 今後のスケジュール  
  京都議定書は,8月末からヨハネスブルグで開催される「環境サミット」において発効になる.このため我が国は本年6月6日(90日前)までにこれを閣議で批准する必要がある.次に,発効が予定通りになれば,参加国は'05年までに目標達成に向け推進し,'06年までに「温室効果ガス排出量算定システム」 などの制度の整備をする.その後'08~'12年の「第1約束期間」の平均値で目標を達成することになる.我が国は'02~'04年を「第1ステップ」として各種の施策に取りかかり,'05~'07年を「第2ステップ」に置き,前者の評価,見直し,更に「第1約束期間」を仕上げ,これを「第3ステップ」と位置付ける(図2参照)
図2 温暖化防止対策のスケジュール


   表1 温室効果ガス削減の主な内容と目標値
主な内容目標値
○ライフスタイル 
(現行の施策) 
・冷房温度28 ℃以上,暖房温度20 ℃以下とする44~85
・車両の駐停車時はエンジンも止める14~18
(追加施策) 
・白熱灯を蛍光灯に交換する74~141
・消費電力の少ない電子レンジの普及させる35~68
・食器洗い機の湯消費量を削減する118~160
・節水シャワーヘッドの普及させる 85
・家族の団らんを同一室とし,空調や照明の電力を20 %削減する341~467
・テレビを見る時間を1時間/日削減する19~35
・冷蔵庫は過剰に入れず,扉の開閉を効率的に行なう15~28
・風呂の残湯を洗濯に利用する24~46
・炊飯器の保温をやめる44~85
・包装の省略(買物袋を持参利用)する  83
・歯磨き,洗顔中は水道を止める 9~17
・エコクッキング(ごみを減らし,燃料,水を節約)  10
・エコドライブ(冷房温度を上げ,急発進や不要な積載物をなくす) 81~162
・車窓に断熱フィルムをつけるなど2~3
○職場(追加施策) 
・白熱灯を蛍光灯に交換する 64~122
・屋外照明の上方向光を50 %削減させる17~23
・高効率調理器を普及させる 2
・昼休みなどに消灯する18~31
・コピーを削減する1~3
・パソコン類は不要時に電源を切る4~7
○国,地方自治体 
(現行の施策) 
・事務,事業における温室効果ガスを削減させる ≦15
・都道府県と市町村の努力  260
(追加対策) 
・サマータイムを導入する 25~123
○省エネルギー対策(以下現行+追加施策) 
産業部門 
・経団連自主行動計画の実施.省エネ法の徹底を図る6 050
・高性能工業炉導入の促進を図る 110
・高性能ボイラー,レーザーを普及させる 150
民生部門 
・トップランナー方式の実施(家電品など)3 040
・〃(自販機,変圧器など) 290
・高効率給湯器を普及させる('10年度400万台) 110
・待機電力の少ない家電品を普及させる 110
・高効率照明器具を普及させる 180
・ビル新増築時に省エネ措置させる届出を義務化する3 560
・エネルギー需要を適切に管理するシステムを普及させる 
('01年度全世帯の30%) 290
〃(業務用ビル床面積の30%) 770
運輸部門 
・トップランナー方式の実施(車輌など)1 390
・クリーンエネルギーの普及(〃) 220
・優遇税により低公害車を普及させるなど 260
・アイドリング停止装置を付加する(バスなどに30%) 110
・速度抑制装置取付を義務化する(トラックなど) 80
・交通需要のマネジメント(時差出勤など) 70
・道路工事の効率化を図る 40
・ETCシステムを整備する 370
・信号システムを整備する(系統化,感応化など) 70
・在宅就労を増す('01年度1 630万人) 340
・鉄道,内航貨物輸送の推進を図る 150
・参入規制の緩和などを図る 260
・鉄道輸送力の向上,トラック輸送の効率化.輸送距離の短縮化する 500
・新幹線・バスレーンなどの整備,利用促進を図る 520
・鉄道車輌,航空機の高効率化を図る 150
○新エネルギーの導入 
・太陽光発電,燃料電池などの導入;'01年度までに石油換算で1910万kl分
・電力会社に新エネルギー発電枠を義務付けるなどの策を追加する3 400
○燃料転換 
・石炭火力発電をLNGに転換する1 800
○原発の促進 
・'10年度までに'00年度原発発電量の30%増とすることが必要 
(注)目標値の単位は(CO2換算)万トン

5 用 語  
① 京都議定書;地球温暖化防止条約に基づき先進各国の'10年頃の温室効果(温暖化)ガス削減目標を'90年比で規定(日本6 %,欧州8 %など)し,排出権取り引きの仕組みなども定めている.これは'97年の地球温暖化防止京都会議において採択,昨年のマラケシュ会議で合意され,本年8~9月にヨハネスブルグにて開催する環境サミットで発効になる予定である.現在,各国はこれを目標として批准手続を行っている.  
② 温室効果ガス;太陽光で暖められた地表から放射される赤外線を吸収し,温室のように大気温度を上昇させる効果のある気体をいう.京都議定書では,二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素,代替フロン(HFC;ハイドロフルオロカーボン)類,パーフルオロカーボン(PFC)類,6フッ化硫黄(SF6)の6種が対象になっている.
  (参考資料;朝日,日経,日刊工業の各新聞)