97     特定保健用食品  


     特定保健用食品は,健康強調表示(health claim―健康に関する機能表示)が例外的に表示できる食品として,平成3年に栄養改善法の下制度が誕生し,平成5年に初めて表示許可された.  
  制度の発足前は「機能性食品」の呼称で話題を呼んだが,「機能性」の文言が医薬品の専用語であるとの解釈から,「特定保健用食品」の名称で登場することになった.  
  本食品の範囲について,表1に示すような例示が示されている.主として「生活習慣病の一次予防のための食生活の改善を目的にした食品」と位置付けられている.  
  したがって,本食品を摂取する対象者は,半健康人や健康が気になる人とされている.


   表1 特定保健用食品の「保健の用途」の表示例
ア 容易に測定可能な体調の指標の維持に適する又は改善に役立つ旨
[例]:血圧(血糖値,中性脂肪,コレステロール)を正常に保つことを助ける食品
イ 身体の生理機能,組織機能の良好な維持に適する又は改善に役立つ旨
[例]:便通(お通じ)を良好にする(の改善に役立つ)食品
ウ 身体の状態を本人が自覚でき,一時的であって継続的,慢性的でない体調の変化の改善に役立つ旨
[例]:肉体疲労を感じられる方に適した(役立つ)食品

1.表示許可品目数  
  平成5年以来,許可品の数はうなぎ登りに増加しており(図1), 本年2月20日現在で298品目になっている.  
  「保健の用途(健康に関する機能表示)」別にみると, 乳酸菌/食物繊維/オリゴ糖を「関与成分(保健の用途に直接関与する成分)」とする整腸関連の 品目が60 %弱と最も多く,次いでコレステロール関連(10 %),血圧関連(8 %),血糖 値関連(6 %)が続いている.他にミネラル(カルシウム,鉄,マグネシウム)の吸収促進, むし歯関連,骨関連の表示が許可されている.  
  「食品形態」別では,飲料が全体の1・3と最も多く,次いで乳酸菌関連の 食品形態が20 %強,菓子類が10 %強であり,他にテーブルシュガー,シリアル,ソーセージ, めん類などの数多くの形態が許可されている.
図1 表示許可・承認品目数の年次推移

2.市場規模  
  (財)日本健康・栄養食品協会の調査によれば,希望小売価格ベースながら平成13年度で4,200億円に到達する見通しである.  
  「保健の用途」別では,乳酸菌による整腸関連が全体の77 %と圧倒的に多く,次いで血糖値関連とむし歯関連が5 %弱であり,本来の生活習慣病目的のカテゴリーの商品の売上げは未だ小さい.  
  「流通」別では,商品の性格上90 %以上が食品系の流通を通じて販売されている.  
  本食品の役割が消費者に十分理解されていない現状でありながら,専門家による推奨販売が可能な薬品系などの流通でのシェアーが低い.
3.申請審査制度  
  健康強調表示などの表示の許可を得るためには,有効性/安全性/品質に関する科学的な資料を厚生労働大臣宛て提出し,専門家により構成される薬事・食品衛生審議会で審議され,商品サンプルの分析を経て,適当と判断された場合に許可が与えられる.  
  申請に必要な科学的資料の種類は,表2に示すとおり多岐にわたっており,特に当該食品での「ヒトによる試験」で有効性が証明されていることが原則になっている.許可を得るためには,これらの資料を十分に収集しなければならない.また,「保健の用途」,「関与成分」については一定の条件が定められているため, これらの条件を満たしている必要がある.「保健の用途」は, 表1の3つの表示例に該当するものであることが望ましく,「関与成分」では食経験が豊富で安全性に問題がないものであることに加え,46通知(昭和46年に出された医薬品の範囲を定める通知・平成13年に改定)における「専ら医薬品に分類されるもの」は,対象成分から除外される. 


   表2 申請に添付を必要とする主な科学的資料
 関与成分および関与成分を含む食品について 
(1) 有効性を裏付ける資料 作用メカニズム,摂取量,体内動態
ヒトによる比較対照試験,長期取扱試験
(2) 安全性を裏付ける資料  食経験による安全性
毒性試験(急性毒性,亜急性毒性,亜慢性毒性,変異原性など)
ヒトによる過剰摂取試験,長期摂取試験
(3) 品質を裏付ける資料 関与成分の物理的,化学的,生物学的性状,試験検査方法
食品中の関与成分の定性および定量試験方法と安定性
品質管理の方法に関する資料
食品の成分分析表および熱量の試験検査成績書

4.商品の有効性など  
  有効性の証明は,作用機序,摂取量設定(Dose-Response),関与成分の体内動態,ヒトなどによる対照食との比較試験/長期摂取試験が要求される.特に,ヒトによる比較試験では,主要な観察項目において対照食(プラセーボ)との間に統計学的に有意な(p<0.05)差が認められることが求められている.  
  食品の機能は緩和であり,一般にその効果が発現するまでに多少の時間を要する.  
  たとえば,乳酸菌/食物繊維/オリゴ糖で整腸をうたう食品では,ヒト試験により1~4週間で排便回数や排便量の増加,腸内細菌叢の改善が見られている.血圧やコレステロールを調整する食品では,その高めの人で2~8週間で改善効果が発現している.また,体脂肪などの減少は,当該食品摂取8~12週後に現れる.  
  一方,食後の血糖値や中性脂肪の上昇を抑える食品では,当該食品摂取1~3時間後で効果が現れ始める.  
  このように緩和な作用ではあっても,日常の食生活の改善のためにこれらの食品を取り入れることによって,危険域(半健康状態)から健康状態に引き戻す効果が期待できる.
5.問題点  
  制度発足から10年で制度が未熟であること,食品と医薬品の区分が不公平であること,評価方法が明確でないこと,制度の運用にメリハリが必要であることなどの問題の他,消費者への理解促進などが上げられる.特に,食品と医薬品の区分の問題は,医薬品優先の考え方が支配しており,表示の範囲に制限が加えられていることもあり,消費者ニーズへの対応や消費者の理解促進を阻害している.食品と医薬品の役割分担を検討するとともに,食品のもつ機能を存分に生かせる範囲作りが大切であろう.また,評価方法についても,疾病の罹患の可能性が明確でないヒトの試験の場合の問題が山積みしており,今後の専門家による研究成果が待たれている.