75.   照射食品(1)


  馬鈴薯やタマネギの発芽組織は放射線の影響を受けやすく、他の組織は ほとんど放射線の影響を受けない。そこで放射線を利用することで、商品価値を落とさずに 発芽抑制が可能である。低線量の放射線を照射すると農産物の種類によるが、0.03~0.15kGyである 【 表 1 】。
このように照射された馬鈴薯やタマネギは、発芽することなく半年以上貯蔵することが できる。
  放射線を食品に照射することは、国ごとに法律により対象品目、目的、線量など が規制されている。我が国では1972年に馬鈴薯の発芽抑制に0.15kGy以下のガンマ線照射が 認められている。1974年1月から北海道の士幌で馬鈴薯の照射が実施されている。
  最近特に米国で、病原性大腸菌O-157,サルモネラ菌による食中毒の多発から 、この照射食品に対して激しい動きがみられる。食品照射は食中毒を防止するために存在する 数多くある手段の一つに過ぎない。したがって、米国ではGMP(Good Manufacturing Practice, 製造適正基準)に代わる手段として、これを利用することはできない。食品照射施設はその他の 食肉加工工場と同様に、必要な衛生基準を満たすことが要求されている。

【 表 1 】
照射の目的線量(kGy)対象品目
発芽および発根の抑制0.03~0.15馬鈴薯,タマネギ,ニンニク,甘藷 シャロット,ニンジン,栗
殺虫および不妊化  0.1~1.0  穀類,豆類,果実,カカオ豆,メツメヤシ,豚肉(寄生虫),飼料原料
成熟遅延 0.5~1.0 バナナ,パパイヤ,マンゴー,アスパラガス,きのこ(開傘抑制)
品質改善 1.0~10.0 乾燥野菜(復元促進),アルコール飲料(熟成促進),コーヒー豆(抽出率促進)
殺菌(Radurizaition) 1.0~7.0 果実,水産加工品,蓄肉加工品,魚
殺菌(Radicidation) 1.0~7.0 冷凍エビ,冷凍カエル脚,家禽肉,飼料原料
殺菌(Decontamination,Sanitization) 3.0~10.0 香辛料,乾燥野菜,乾燥血液,粉末卵,酵素製剤,アラビアゴム,コルク
滅菌(Radappertization) 20~50 蓄肉加工品,病人食,宇宙食,実験動物用飼料,包装容器,医療用具

①食品照射の目的
   放射線照射は食品の安全性を向上するために行なわれる。 すなわち、危険な細菌,寄生虫,昆虫やカビを殺滅して、病原性細菌による食中毒の 危険を減らすことができるのである。
しかし、一般消費者に販売することを目的として、冷凍,冷蔵生肉や鶏肉を放射線照射する 場合に、FDAなどが認めている吸収線量範囲(4.5~7kGy)で照射を行っても、すべての病原性 の菌が殺滅するわけがなく、単にその菌が減少するだけである。すべての菌を殺滅するには もっと高線量(40~50kGy)の照射が必要である。
このような照射は、病院においては免疫系が弱っている癌患者などの食品を殺滅する目的で 長年用いられている。 また、宇宙飛行士が宇宙に持ていく生鮮食料品は、照射処理が施され病気を引き起こす 原因となる生物がいないことを保証している。さらに、放射線照射は腐敗を遅らせることもできる。 たとえば、未処理のイチゴは冷蔵庫の中で3~5日しかもたないが、放射線照射を行なうと3週間も 保存することができる。

②US,FDAが認可している照射食品 次の【 表 2 】に示すように、食品と目的を認めている。たとえば肉の場合、冷蔵、冷凍された未加工の 獣肉類,鶏肉,副生成物(meat by products)などが対象となるだろう。具体的には、獣肉、鶏肉 の全体(whole),または部分(cut-up)皮なし鶏肉,ポークチョップ,ロースト用肉,シチュー用肉 ,肝臓,ハンバーガーパテ,ひき肉などが照射されることになるだろう。軽食用の肉類,製品は 現在のところ照射は認められていない。

【 表 2 】FDAが認可した照射食品
製 品照射の目的照射の上限(kGy)許可日
小麦と小麦製品害虫防除0.2~0.28/21/1963
ジャガイモ 発芽抑制 0.05~0.15 11/1/1965
香辛料と乾燥野菜など 除菌と害虫防除 30 7/15/1983
乾燥または脱水酵素調整品 害虫防除と微生物防除 10 6/10/1985
豚肉 寄生虫の防除 0.3~1.0 7/22/1985
生果実 成熟抑制 1 4/18/1985
乾燥または脱水酵素調製品 除菌 10 6/10/1985
乾燥または脱水野菜香気成分 除菌 10 6/10/1985
豚肉 殺菌 3 5/2/1990
肉類 冷蔵 殺菌 4.5 12/23/1997
肉類 冷凍 殺菌 7 12/23/1997
殻付生鶏卵 殺菌 3 7/14/2000

(参考資料)電磁波と食品(光琳書房),および都立産業技術センター