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PWM制御とPAM制御
                                


  最近、ルームエアコンや冷蔵庫、洗濯機といった家電品のモータの回転数制御に、PAM方式のインバータが使われ るようになってきた。インバータによるモータの速度制御方式には、従来から使われているインバータの電流流通率を 変えて出力電圧を制御するPWM方式(Pulse Width Modulation)と、電圧そのものを変えるPAM方式(Pulse Amplitude Modulation) がある。以下、ルームエアコンへの適用例により特徴を説明する。

  
図1 回路構成


図2 モータに印加する電圧

 (1)PWM制御とPAM制御の比較
図1に回路の簡単なブロック図、図2にモータに印加する電圧の状態を示す。図1において、インバータ部は6個のトランジスタで 構成され、これらをON/OFFすることにより、モータに印加する速度周波数に応じた交流電圧を作り 出している。さらに次のようにして、速度指令に応じてモータに印加する電圧を変え、モータの速度を制御している。
「PWM制御」:この方式は、コンバータ部にリアクタとコンデンサからなるパッシブフィルタを配置し、力率の改善 と高調波の制御を行う。また、整流回路と組み合わせたコンデンサ分圧の倍電圧回路により、交流(AC100V)を直流(DC240V) に変換し、インバータ部に供給する。インバータ部では、この直流電圧(DC240V)を、周波数変換すると共に、電流流通率を 変えてモータへの出力電圧(平均電圧)を可変制御する。
「PAM制御」:この方式は、アクティブフィルタでコンバータを構成し、スイッチング素子を制御することによって、 インバータ部に供給する直流電圧そのものを変化させ、モータへの出力電圧を制御している。この場合、インバータ部への電圧印加は 連続(電流流通率100%)である。またこれにより、電源(AC100V)の電流(AC100V)の電流波形を正弦波状に制御している。

 
  (2)PWM/PAM複合制御
最近はさらに進んで、PWM制御とPAM制御を複合して用いるようになっており、次の二つの方式がある。


図3 モータ制御方法

①低速領域ではPWM制御、高速領域ではPAM制御を行う方式
 この方式は図3(b)のように、モータが低速回転の時には、全波整流後の直流電圧を比較的低い電圧(150V位)に 設定し、インバータで電圧流通率を変えてモータへの出力電圧(平均電圧)を変えるPWM制御を行う。この結果、 直流電圧を従来より低くしたことにより、モータのリップル電流が小さくなり、モータの効率が高くなる。また高速回転の場合、 インバータでのスイッチングが無くなることから、インバータのスイッチング損失を低減できる。モータでは、 脈動電流成分の減少によりコア内のうず電流損失(鉄損)が低減し、効率を向上できる。以上のことから、回転の全域にわたって モータ効率を2~3%向上でき、また、回路効率を含めた総合効率もモータ効率の向上と同じくらい向上できる。
 
②PAM制御で電圧を回転速度に応じて段階的に上げ、PWM制御で細かな電圧制御を行う方式
 この場合も、モータの効率を向上できる。しかしインバータは、低速から高速までスイッチングしているので(1)の方式 に比べて回路効率が悪くなる。
 
(3)PAM制御の効果
①力率改善:PAM制御では、アクティブフィルタの波形整形作用によりAC100V電源の電流波形を正弦波にでき 、力率をPWM制御に比べて約10%向上できる。(最大力率:90%→99.5%)
 
②効率向上:上述のように、モータ効率さらにはインバータを含めた総合効率を向上できる。
 
③(暖房)能力増大:PAM制御では、モータへの印加電圧増大によりトルクを大きくでき、さらに力率を向上して 有効電力を増加できることから、回転数を増して能力を増大できる。特にルームエアコンでは、低外気温時に暖房能力を 大幅に向上できる。
 
④高調波ノイズ低減:PAM制御では、力率を改善して電源(AC100V)の電流波形を電圧波形と相似の正弦波にでき、 高調波の発生を抑えることができる。高潮波に関しては、国際規格IEC-1000-3-2に準拠した値で、1966年に導入された「高調波 ガイドライン」で規制されているが、PAM制御を使えば、基準値を十分にクリアできる。
 PAM方式が可能になったのは、力率改善回路およびパワーデバイスの進歩により、高機能アクティブフィルタが比較的 低価格で作れるようになったことによる。今後は、さらに低価格化を図ると共に、ノイズやスイッチング損失などを低減して更なる 省電力を図って行く必要がある。