臭気指数規制
臭気指数規制


  臭気指数規制とは,悪臭防止法に基づく排出規制手法の一つであり,人間の嗅覚を用いた測定により算出される臭気 指数を指標とし,事業活動に伴う悪臭の排出を規制する制度である.複合臭に対する規制を目的として,平成7 年度の 悪臭防止法改正により新たに規定された手法である.
  従来は,アンモニアや硫化水素などの悪臭防止法に定める22 物質の個々の濃度により規制を行ってきたが,近年対 象となる臭気が畜産農業(産業型)だけではなく,都市生活(民生型)へと種類が拡大し,飲食店の厨房排気など特定 悪臭物質の規制だけでは解決できない事例も多くなり,臭気指数規制を導入する自治体が増えてきている(2003 年5 月 現在70 市町村).
    
  規制基準は,工場や事業場の敷地境界線上の臭気,気体排出口から排出された臭気および排出水に適用され,さらに 住居系(第1 地域),商業系(第2 地域),工業系(第3 地域)の用途地域ごとに基準が定められている.たとえば,長 野県松本市では表1に示す規制基準が定められている.
    
  悪臭防止法に基づく臭気指数を測定する嗅覚測定法は,気体(敷地境界 線,気体排出口)については三点比較式臭袋法,液体(排出水)について は三点比較式フラスコ法と定められている.一例として,三点比較式臭袋 法による気体排出口における臭気指数の測定フローを図1に示す.臭気を 含む排出気体を試験室に持ち帰り,6 人以上の嗅覚試験者(パネル)が無 臭空気により希釈されたにおいを嗅ぎ,嗅ぎ当てられなくなったときの希 釈倍数を臭気濃度と言い,その臭気濃度の常用対数値を10 倍したものを 臭気指数として算出する.気体を100 倍に希釈したときに,においが感じ られなくなった場合,臭気濃度100,その臭気指数は20 となる.
    
  
  ちなみに,世界では,機械で自動的に希釈臭気を作成するオルファクト メータ法* 1 が嗅覚測定法の主流となりつつあるが,日本の三点比較式臭 袋法(日本方式)も測定精度はほぼ同じであり,コストや測定時間の点で 優位性があるため,国(環境省)なども日本方式の世界的な普及に努めて いるところである.
    
  *1 欧州連合内(EU)では規格化され,国際標準化機構(ISO)の標準規格への採 用も有力視されている.
  臭気指数規制を導入する利点は,
    ① 数十万種あるといわれている多種多様な臭気物質に対応することが可能.
    ② 機器分析では定量の難しい極低濃度の成分も,においとして検出可能.
    ③ 臭気物質間の相乗・相殺効果などの相互作用が評価可能.
    ④ 感覚(嗅感覚量)の大きさが刺激強度(物質濃度)の対数に比例するウェーバー・フェヒナーの法則に基づく指標
  であるため,住民の悪臭に対する被害感と一致しやすい. といったことが具体的に挙げられ,悪臭公害は人間の嗅覚を通して不快感を与えることからも最終的には嗅覚測定によ る評価が不可欠であるとの主旨にまとめられる.
  高価な機器も必要としないなどのメリットもあり,嗅覚測定法の重要性がますます高まってきているが,試験実施者 により結果がバラツキやすく,一般的に測定精度に対する信頼性が低いということに注意が必要である.そのため,法 規制を目的とした臭気指数の測定においては,国,自治体が直接行う場合以外,臭気判定士(嗅覚測定法による測定全 体を管理・統括する責任者.国家資格)が実施しなければならないことになっている.
  臭気指数規制の広がりに伴い,脱臭対策や脱臭装置などの効果を評価する場合も臭気指数で行うことが増えてきてお り,今後耳にする機会も多くなると思われる.