まぐろ類の資源管理機関
まぐろ類の資源管理機関

  鮮魚を刺身で食べるのは世界中で日本が圧倒的に多く,特にまぐろの刺身は江戸時代より庶民に食され,海に囲まれ た海洋国日本の伝統的な食文化となっている.
    
  戦後は貴重な動物性蛋白源として近海まぐろの延縄漁船により漁獲が行われていたが,1952 年マッカーサーライン の全面解除により遠洋まぐろ延縄漁船が世界の海に出漁できることになり,長期航海が行われることになった.漁獲物 の保管はそれまでの氷蔵から船上凍結を行い,凍結品で保蔵を行うべく冷凍設備の規模が大幅に大型化された.当初は 凍結温度- 30 ℃,保冷艙(魚艙)- 18 ℃で設備されたが,魚体の褐変(魚身が黒赤色になる)がおこり刺身にならず, 低魚価で推移した.その後,単機二段圧縮機およびそれまでのNH3 冷媒に換わり,新冷媒R 22 が開発され超低温化が 図られ,現在の凍結温度- 60 ℃以下,保冷艙- 55 ℃が可能となり,現在の長期航海(1 ~ 2 年)でも釣り上げた状態で 保蔵が可能となり,刺身として食されている.
    
  世界のまぐろ類消費量は1975 年に約90 万トンであったが,2000 年には約190 万トンと世界のまぐろ漁獲量は大きく 伸びている.このうち日本での消費量は約63 万トン,うち約55 万トンが刺身として食され,世界最大の市場国となっ ている.また,日本以外の諸外国での消費は最近一部刺身としての利用をされてきているが,大部分は缶詰などに利用 されている.このため,世界の漁業国は付加価値の高い刺身用まぐろを漁獲し,最大市場国日本に向けて輸出している.
  前述のとおり,まぐろの漁獲量増大により資源の枯渇が問題視され,まぐろ類は公海と沿岸国の排他的経済水域を広 く回遊するため,海域ごとにICCAT,IOTC,IATTC などの国際漁業管理機関が設立され,漁獲量の割り当てなど資源 の持続的利用を図るべく資源管理が行われている.一方,これらの国際ルールを逃れるため,国際機関に加盟しない国 や加盟国でも,ルールを守らせる体制の整っていない国へ船籍を移して操業する漁船が約240 隻程度あり,無秩序な操 業でIUU 漁業*を行うFOC 漁船**の存在が国際的な緊急課題となっている.1999 年にはFAO(国連食料農業機構)が 世界のまぐろ資源は限界を超えて利用されいると判定され,まぐろ漁船を減らすよう勧告がなされている(日本では日 本国のまぐろ漁船の20 %,132 隻の減船を行っている).このため,以下のような国際的なIUU 漁業廃絶対策が取られ, 市場国である日本でも積極的に協力を行っている.
    
  ① 統計証明制度:まぐろ類の輸出に当たり,漁船の船籍国政府が船名,漁獲海域などを確認した統計証明書を発行し, 輸入国がこの統計証明書を回収することにより,貿易面から各国の漁獲状況をモニター.
  ② IUU 漁業国からのまぐろ類禁輸措置 国際的な資源管理を損なう漁業活動を放置している国を特定し,これらの国からのまぐろ類の輸入を禁止.
  ③ IUU 漁獲物の取引自粛要請
IUU 漁船リストを作成し,それらのまぐろ類の取引自粛を要請.IUU 漁船リストを作成し,それらのまぐろ類の取引自粛を要請.
 
  また2002 年以降,各国際漁業管理機関において,さらなる対策として,各国が正規に漁業許可を付与している漁船 をリストアップし,これらの正規許可船のみを国際取引の対象とするポジティブリスト***対策が決議され,日本にお いては実施されている.
  これらを踏まえ,限りあるまぐろ資源の持続的利用を目指して,OPRT(責任あるまぐろ漁業推進機構)が2000 年 に発足し,世界の主要まぐろ延縄漁業国,漁業者に協力を呼びかけ,日本,台湾,韓国,フィリッピン,インドネシア, 中国の漁業者団体が加入し,IUU まぐろ漁業の防止,阻止,廃絶および過剰漁獲能力の抑制,混穫問題など海洋生態系, 海洋環境の保全に向けて世界的に活動を行っている.
    
  このように世界の海を回遊するまぐろ資源の持続的利用の確立をめざし,国際的な保存・管理が行われている.
    
*IUU(Illegal,Unregulated and Unreported)漁業:国際漁業管理機関などの国際ルールを守らず「違法,無規制,無報告」による漁業.
    
**FOC(Flag of Convenience)漁船:国際ルールを逃れるため,国際機関に加盟しない国や加盟国でもルールを守らせる体制の整って いない国へ便宜的に船籍を移して乱獲を行う漁船(便宜置籍船).
    
***ポジティブリスト:国際漁業管理機関によって認知された大型まぐろ延縄漁船リスト.