112. 食感性工学
近年,楽器・自動車・建物・景観などの設計に人の「感性」を考慮する試みが始められ,いろいろな分野の学会など
で「感性」をキーワードとする研究が発表されるようになってきた.我々の「感性」は生活のアメニティーと密接不可
分の関係にあり,これに関する研究・開発は近い将来,学問的にも産業的にも急速に発展することが予測されている.
食感性工学の主な目的は,消費者が「食」に関して感じるおいしさや嗜好を何らかの手法で計測または評価し,再現
性や客観性の高い数量化された情報を得るシステムを創出することにある.
このようなシステムを構築するためには,
食品が保有している物質的属性と「食」にまつわる人の心理学的動態,すなわち「食感性」を把握して,これら相互の
関連性を明らかにし,最終的には「人の食に対する感性」を定量化しなければならないと考えられる.
このための具体
的研究領域には,食情報のセンシングと評価,生体生理反応機序の解明,センシング情報の感性情報への変換および嗜
好形成のモデリング,さらには新製品の開発および販売戦略の手法までが含まれ,国内外の食品関連学会や産業界から
商品開発や販売戦略に革新的な改善をもたらす新しい科学技術の出現として注目されている.
これらの研究成果は,消費者の食生活に関する欲求を満たすとともに,その健全化を図るためのツールとして役立ち,
社会・経済的側面では,消費者に支持された生産方式,すなわち,Consumer-supported Production を食品業界において
実現し、さらには,新産業・市場・社会システムを創生するのにも役立つものと期待されている。
本号の「最新食品工学講座」には,数回に渡って食感性工学分野の研究・開発動向に関する最新情報が掲載される予
定であり,本号には初回として「食感性工学のパラダイムと展望」が掲載されている.
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