11. サイクロスポーラ(Cyclosporiasis)
当原虫によるヒトに対する疾患は、クリプトスポリジウム症同様、新興感染症にあげられる。
この命名は94年になされ、それ以前はシアノバクテリア一様体、またはコクシデイア一様体と呼ばれ、分類学的
には藍藻植物ではないかといわれてきた。
ヒトに感染するのはサイクロスポラケイタネンシス(Cyclospora caytanensis)
と称される、直径8~10マイクロメータの球形原虫で、6~9の顆粒の集った桑実胚様の構造をもっている。
感染は飲料水、果物、生野菜などから、成熟オーシストの経口摂取により小腸(腸管上皮細胞)に寄生し、無性
生殖によりメロゾイト形成し、2~11日の潜伏期を経て症状が現れる。主な症状は水様性下痢でトイレの回数が
著しく多くなり、食欲不振、体重減少、むくみ、鼓腸、胃けいれん、悪心、嘔吐、疲労感、筋肉痛、軽度の
発熱があり、治療しない場合は1ヶ月以上下痢が続くこともある。また、治療薬としてはTrimethoprim/
sulfamethoxazoleが有効とされているためか、死亡例は報告されていない。当感染症の診断は、患者糞便中の
オーシスト壁は蛍光顕微鏡下でネオンブルー蛍光を発する。
当原虫の出現歴をみると、1870年にモグラの腸管で発見されたのが最初で、
続いてヘビ、ネズミなどから検出された。1977年ニューギニアの幼児の下痢便から胞子虫類のオーシストが
検出され、1986年ハイチ、メキシコの旅行者の下痢便から検出、1989年ネパールカトマンズ市で外国人旅行者
55人の便にオーシストが検出され、その後ネパール訪問者に時々みられた。しかし原因が水系感染と思われる
ものは28%程度で大部分の原因は水系外の感染とされていた。1996年米国20州にわたって1465人の集団感染が
発生したが、推定原因としてグアテマラ、チリからの輸入ラズベリーが感染を媒介したのでないかと疑われ、
それらの栽培に汚染された農業用水の散布が原因でないかとされている。現在、米国FDA、CDCによって
これら産地にHACCPシステム導入を図り、使用水等の衛生管理を指導し、その後の感染は防止されている。
1996年日本人で初めて東南アジア旅行者から検出された。1997年米国バージニア州で会社の昼食会で喫食された
バジル入りパスタとサラダから検出され、さらに米国・カナダで1450人もの集団感染が報告されている。
目下、欧州、日本での集団感染の報告はないが油断は禁物である。
(資料)
1)国立感染症研究部,遠藤・八木田,「食品衛生研究」98.1.
2)東京医科歯科大学教授,藤田紘一郎,「朝日新聞」
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