106. ループ型サーモサイフォン式
ヒートパイプ ヒートパイプは, 密閉容器内部に作動流体を封入して, 作動流体の蒸発・凝縮により熱移動を行う伝熱要素である. ヒートパイプ内部は作動流体の液と飽和蒸気で満たされており, 図1 のように一端を加熱し他端を冷却すると, 加熱部 で液が蒸発し蒸気となり, 冷却部に速やかに移動し凝縮する. この過程では, 作動媒体の相変化と高速の蒸気流によっ て熱が移動するため, 極めて低温度差で大量の熱輸送を行うことができる. 冷却部で凝縮した作動液は, ウイックによる毛細管力, 重力, 遠心力などにより加熱部に還流し, 蒸発-蒸気移動- 凝縮-液還流のサイクルを形成し, 定常的な熱移動を行う. この液還流方法の中で重力を利用したもの(図2)が“サー モサイフォン式”と呼ばれており, 一般に普及している. この方式では重力により液還流を行うため, 冷却部(凝縮部) が上方に, 加熱部(蒸発部)が下方に位置することが熱輸送の前提となり, 使用条件の制限となるが, ウイックなどの還 流部材が不要となり, 構成要素が密閉容器と作動流体のみと極めてシンプルで実用上はコスト的に有利なものである. また, ウイックを装着したヒートパイプに較べて, 1 蒸発部および凝縮部の熱抵抗が小さい, 2 液還流時の毛細管限 界による熱輸送限界の制約がない, 3 蒸発部のドライアウトによる熱輸送限界が大幅に向上するなどの利点がある. しかしながら, サーモサイフォン式では, 蒸気流と液還流が気液界面をなす対向流となるため, 熱輸送量の増加に伴 う蒸気流速の増加とともに, 帰還液流が逆行する蒸気流のせん断力により吹き戻され, 不連続な流れとなったり, さら に蒸気流速の大きい場合は液流が帰還しない状態になり, 熱輸送が不可能となる. これに対し, 図3 のように蒸気流路と液還流路を分離したものが“ループ型サーモサイフォン”であり, 蒸気流と液流 の干渉がないため, 熱輸送限界が極めて高いものとなる. また, この方式では蒸発部と凝縮部の配置の自由度が大きい ため広範囲の適用が可能であり, 高発熱密度素子・装置の冷却, コンパクトな熱交換器構成としての展開が期待される. [出典] 図1~3:「実用ヒートパイプ」日本ヒートパイプ協会編. |