104. 配管摩擦抵抗低減(Drag Reduction)剤  

     配管内をある程度の速度で水が流れるとき,配管内壁部と中心部の水分子が激しく入り乱れ ながら流れる,すなわち「乱流」状態にある.配管摩擦抵抗の大部分は,この乱流運動に起因 する.したがって,乱流を抑制(流れを層流化)することによって,配管摩擦抵抗を大幅に低 減することが期待できる.これは,図1のRe数と配管摩擦係数の関係を表わしたムーディー線図 において,乱流域の摩擦係数を破線で表わした層流域の線図の延長上に近づけることである. これを目的に開発された添加剤が配管摩擦抵抗低減[Drag Reduction]剤(以下,DR剤,その 効果をDR効果注)と呼ぶ)である. 図1 ムーディー線図(L.F.Moody)
   DR効果は,1948年B.A.Tomsによって発見され,Toms効果とも呼ばれる現象 である.DR剤の材料としては,高分子剤や界面活性剤が利用される.流動水に微量添加するこ とによって,長鎖状の高分子や,図2に示すようなあたかも長鎖状を形成する界面活性剤の集合 体(棒状ミセル)が,流動水を非ニュートン流体に改質する.ニュートン流体である清水はせ ん断速度によらず粘度は一定であるが,非ニュートン流体はせん断速度によって粘度が変わる .図3に示すように管内流動状態は,壁面近傍のせん断速度が大きいところでは粘度は小さ くほとんど清水と同様であるが,中心部のせん断速度の小さいところでは粘度が大きく乱れ ない塊状の流れになっている.

図2 流水中に形成される棒状ミセル

図3 管内流動状態の比較


   高分子添加剤によるDR効果の応用は歴史的にも古く,船舶の航行速度の 上昇,消防用放水能力や石油パイプラインの輸送能力の向上などの例がある.しかし,ポン プのインペラーなどの機械的せん断力によって分子構造が破壊されてしまい,循環系ではDR 剤の劣化の問題があった.これに対して界面活性剤は,前述の図2に示した棒状ミセルが破 壊されても再生するため,近年の研究の主流となっている.
   流速や温度によるが,直管部で最大約80%のDR効果を得ることができる .ただし,実際の配管系では,拡大・縮小部,曲り部,あるいはバルブ類などの局部が存在し ,それら局部抵抗にはほとんどDR効果は期待できない.したがって,実際の全配管系でのDR効 果は,局部抵抗の占める比率によるが,たとえばオフィスビルの配管系では20~30%程度である. 
  注)DR効果(%)=(清水時の摩擦抵抗-DR剤添加時の摩擦抵抗)/清水時の 摩擦抵抗×100