101 プロバイオティクス
1.プロバイオティクスの概念人間の健康に微生物が大きく関わっていることは間違いない.これまでの人類の 歴史は,微生物との戦いの歴史といっても過言ではないと言われる.近代科学の進展に伴って, 人類の寿命は飛躍的に延びた.これには,微生物学の進歩・抗生物質(アンティバイオティクス )の発見が大きく貢献していることは否定できない.しかし,抗生物質の使用は,一方では副作 用や耐性菌出現の問題を有し,最近では多剤耐性菌の出現などの深刻な問題が話題になっている .『プロバイオティクス』という語は,上記『アンティバイオティクス』に対し て提案された用語である.Fuller(1989)による定義では,「腸内フローラのバランスを改善す ることによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物菌体」とされている.ここでの腸内フ ローラとは,消化管内に生息している微生物群のことであり,ヒトでは100種100兆個の嫌気性細 菌(酸素存在下では生育できない細菌)より構成されていると言われている.外から乳酸菌など の生きた有用微生物を摂取することにより,各人の腸内フローラのバランスが改善され,有害な 微生物が抑制され,健康に好影響がもたらされると考えられる.
現在,表1にあるような種類の
微生物を含む発酵乳・乳酸菌飲料,生菌製剤がプロバイオティクスとして用いられている.この
うち注目され研究が最も進んでいるのが乳酸菌である.
2.プロバイオティクス効果プロバイオティクス効果は,菌株特異的であり,同じ種類でも菌株ごとにその効果 は異なるため,優れたプロバイオティクス菌株を探索するための選択法が研究されている.プロ バイオティクス効果をもたらすための,菌株の基本的なプロバイオティクス適性として,一般的 に消化管での生存性,通過性が求められており,これに関与する特性として,耐酸性,胆汁酸耐 性が重要といわれている.摂取した微生物が,胃酸および胆汁酸によって死なずに下流の腸に到達することが必要と考え られるためである.また,消化管への接着性・定着性,病原微生物の抑制などの特性も重要とさ れている.現在提案されている有効菌株の選択基準を表2に示す.
プロバイオティクスの有効性に関して,内外の多くの研究報告がある.最近で は,その評価法も,医薬の評価法に準じた,無作為化されたプラセボ・コントロールによるヒ ト摂取試験が用いられるようになってきた.わが国では,1991年に発足した特定保健用食品制度 があり,科学的な証明に基づいてその機能の表示が許可された,種々の発酵乳商品が上市されて いる.これまでに研究されているプロバイオティクスの効果には,表3に示すように,便秘およ び下痢症の改善効果,乳糖不耐症の改善効果,免疫機能改善による感染防御・アレルギー防止 効果,動脈硬化予防効果,抗腫瘍作用などがある.
3.関連語以上述べたプロバイオティクス以外に,『プレバイオティクス』という用語が提唱 されている.プレバイオティクスは,「腸内に生息する有用菌に選択的に働き,増殖を促進した りその活性を高めることによって宿主の健康に有利に作用する物質」と定義され,オリゴ糖など の難消化性物質やプロピオン酸菌による乳清発酵物がこれに該当する.さらに,プロバイオティクスとプレバイオティクスの両者の混合物『シンバイ オティクス』という概念も提唱されている. |