冷凍サイクルの書き方(その3)

ここまでは、理論冷凍サイクルの書き方について説明してきましたが、
私達が日々ふれる冷凍サイクルは理論サイクルと少し違います。
細かくサイクルを解析するには、実際の冷凍サイクルを書くことが必要です。
これらは理論サイクルより複雑で、周辺知識も必要になります。
では順番に理論サイクルとの主な違いを説明します。

1.圧縮工程
理論冷凍サイクルならば、圧縮工程は可逆断熱圧縮で、コンプレッサーの線は
等エントロピー線に沿って書きました。
しかし実際のコンプレッサーには下に示すような色々な損失があります。

これらは全て(又は一部が)、冷媒ガスを加熱します。従って、
圧縮工程の線は等エントロピー線より寝ます。

実際のサイクルでは、点①と点②の書き込みから始めます。
コンプレッサーの吸込み・吐出し圧力と温度の測定値、
または類似のサイクルから適切に推定した値等によって、点を書いてください。
ここで、実際の圧縮工程①→②には沿わせるべき線がありません。
しかたがないので、近くの等エントロピー線の曲り方を真似して曲線を引きます。
面倒ならば直線で代用しましょう。
図中、吐出しガスの比エンタルピーの差Δh2は合計の損失を示します。
その分、圧縮動力Lは理論サイクルより増します。
特殊な例もあります。水冷ジャケット付きシリンダー等で積極的に
圧縮途中のガスを冷やした場合は、②は②'よりも左側になり圧縮動力は減少し効率も高くなります。

2.冷媒の圧力損失と熱損失
理論冷凍サイクルでは熱交換器や配管内の冷媒の圧力損失はゼロとしましたが、
実際の冷凍サイクルでは圧力損失を無視できません。圧力損失の値は、
抵抗計算を行う・類似した冷凍機のデータから推定する・実測をする等によって求めます。
どれかの方法で圧力損失が求まれば、実際の冷凍サイクルを書くことができます。

次の図は、求めた各部の圧力損失の値を使って書いた冷凍サイクルです。
一般に、圧縮機吸込み圧力および吐出し圧力を最初に決めるので、
点①と点②が書き出しの出発点になります。なお、△p23は吐出し配管および凝縮器の圧力損失、
△p45は蒸発器の圧力損失、△p51は吸込み配管の圧力損失です。

①圧縮機吸込み口
②圧縮機吐出し口
③膨張弁前
④蒸発器入口
⑤蒸発器出口

②'理論サイクル吐出し口
③'理論サイクル膨張弁前

2.1 膨張弁前(点③)
まず高圧側ですが、点③は圧力損失△p23だけ点②より圧力は下がります。
点③の比エンタルピーは③'より右になります。
どの程度右になるかは実測、又は凝縮器についての熱伝達計算によります。
計算には冷媒量も関係し複雑です。
ただし、一般に△p23はあまり大きくないので、
③の比エンタルピーを③'のままとすることもしばしばです。
過冷却度を実機での設定事項とする場合は、当然ながら比エンタルピーは③'のままです。

2.2 蒸発器出口(点⑤)
次に低圧側の書き方に移ります。まず点⑤は点①から△p51と△h51とを変化させて書きます。
⑤→①は直線で結びます。
ここで、吸込み配管の熱損失△h51は配管の断熱性能計算、または点⑤の温度測定に
よって求めてください。
なお、蒸発温度が低い場合(-20℃以下等)や配管が長いときは配管の断熱が不足し、
△h51が大きくなり易いので注意が必要です。

2.3 蒸発器入口(点④)
蒸発器入口④は圧力損失△p45だけ点⑤より圧力が高くなります。
比エンタルピーは点③と同じ、つまり③→④は垂直線です。④→⑤も直線で結びます。
△p45および△p51は蒸発器の冷媒蒸発温度を高くするので、蒸発器の冷却性能を直接下げます。
吸込み管の熱損失△h51も冷却性能を直接下げます。同じ蒸発温度の理論サイクルに比較すれば、
これらの損失は圧縮機吸込み(点①)の圧力を下げ、比体積を大きくするので圧縮機の能力も下がり、
冷凍サイクルの性能はさらに下がっています。 
詳しくは圧縮機の体積効率、断熱効率、機械効率を参照してください。
低圧側の圧力損失は高圧側の圧力損失より性能に大きな影響を及ぼします。

理論冷凍サイクルと実際のサイクルの主な相違点は以上です。
この他にも負荷の大小や冷媒制御器(蒸発圧力調整弁)などによって色々な変化がありますが、
個々に応用するようにしてください。


(例題1) 下記の条件で運転している実際の冷凍サイクルをp-h線図に書込みなさい。
     冷媒はR407Cとする。

記号場  所 圧 力 温 度
圧縮機吸込み口0.30 MPa0 ℃
圧縮機吐出し口2.10 MPa100 ℃
膨張弁前2.00 MPa43 ℃
蒸発器入口0.38 MPa
蒸発器出口0.34 MPa -5 ℃

[例題1] 解答


(例題2) 下記の条件で運転している実際の冷凍サイクルをp-h線図に書込みなさい。
     冷媒はR22とする。

記号場  所 圧 力 温 度
圧縮機吸込み口0.25 MPa-4.5 ℃
圧縮機吐出し口1.90 MPa120 ℃
膨張弁前1.80 MPa44 ℃
蒸発器入口0.30 MPa
蒸発器出口0.27 MPa-10 ℃

[例題2] 解答


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