67.  常圧過熱水蒸気(1)


   常圧過熱水蒸気は特に新しい技術というものではないが、最近になって、食品の解凍や焼成操作に、 コマーシャルプラントによる操業を始め、好評を得ている。
   ①常圧過熱水蒸気とは
     常圧過熱水蒸気とは、高圧高温水蒸気に対応するものとして名付けた名称である。 100℃で蒸発した飽和水蒸気を常圧のまま100℃以上に加熱した水蒸気である。 温度の上限は、1000℃以上まで上昇させた例はあるが、ここでは500℃以下のものを いう。
     従来、100℃以上の水蒸気といえば、密閉容器中の高圧水蒸気をさしており、装置が大型化し、 連続操作も困難であった。これに対してこの常圧過熱水蒸気は、常圧、すなわち大気圧であり、 装置も簡単で、連続化もコンベアー操作できることを特徴とするものである。
     100℃の飽和水蒸気や高圧過熱水蒸気と著しく違う特徴の一つは、食品の加熱に好適な遠赤外線の 放射能を持つ、熱放射性気体だということである。伝熱は、飽和水蒸気と同じように理想気体として 取り扱いができ、熱容量を示す分子熱を図1に示すが、多少高いくらいで空気と大差ない。


   ②酸化を防止した、焦げ目のある焼きができる
   過熱における最大の特徴は、過熱水蒸気雰囲気中のため 酸素が遮断されており、酸化を防ぐことである。この良き例として、天ぷら油の ガス火や電子レンジ加熱との比較試験表を表1に示す。酸化の少ない加熱は 従来考えられないことで、味にも影響を及ぼすであろうが、まだ明らかにされていない。
    魚を焼く場合、水蒸気であるから焦げ目がつかないのでないかと思われがちであるが、 遠赤外線で放射されているから、焦げ目はできる。ガス火や電熱では、よく火を通そうと すると尾の部分などは真黒に焦げるが、この過熱水蒸気ではそのようなことはなく、 全体に平均的に薄めの焦げ色となり、製品としての見栄えも良い。
    最近、冷凍食材輸入の急増により、解凍加工することが多くなっている。この場合、 過熱水蒸気を用いると、解凍と加工が同一コンベアーの移動中に短時間に行なわれる。 この際、解凍では通常見られるはずのドレーンが見られない。 理由は解明されていないが、生産上好都合なことである。

(参考文献:食品工業Vol.42No.15)

各種加熱による天ぷら油酸化の比較
 POV(meg/Kg)AV(mg)
未加熱天ぷら油1.810.27
ガス加熱油*5.160.39
電子レンジ加熱油4.300.27
過熱水蒸気加熱油2.900.27

注:POV過酸化物,AV酸価
*170℃加熱