最近気になる用語 236
 くらげ  
 
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
当時の記事をそのまま掲載していますので古い内容や、当会の専門分野とは無関係な内容もあります。
また、お問い合わせに対しては答えられませんのでご了承下さい
                             


 有明海でビゼンクラゲが大発生し,これを塩くらげに加工する加工業者も増えているとの報道が今年の夏,ニュース を賑わせた.「塩くらげ」と聞いて,あの中華料理の前菜で出される「中華くらげ」を連想される方は少ないと思うが, 中華料理などで出るくらげは加工業者などによって一旦塩くらげに加工されてから店舗で水戻しされ,これが調理され たものである.
 クラゲは東南アジアの各国で漁獲されており,とくに中華料理において用いられている.日本で食用にされるクラゲ はキャノンボールクラゲ,ビゼンクラゲ,ヒゼンクラゲ,エチゼンクラゲ,ホワイトクラゲおよびチラチャップクラゲ の6 種であるが,このうち日本で漁獲されるのはビゼンクラゲ,ヒゼンクラゲおよびエチゼンクラゲの3 種である1).ま た,あまり知られていないが,海水浴でよく海で見かけるミズクラゲも塩くらげに加工することが可能なようである.
 塩くらげは,「原料」→「傘以外の部分の除去」→「洗浄」→「ミョウバンおよび食塩の混合物をまぶす」→「樽に重石を して漬け込み」→「1 ヶ月保存」→「冷水で洗浄」→「ミョウバンおよび食塩の混合物をまぶす」→「樽に重石をして漬け 込み」の工程で製造される.これは,私が古い本をもとに,実際に製造してみて改変した工程であるが,加工業者によ り大きく異なる.基本はミョウバンと食塩の混合物でクラゲの身を固めることである.
 傘以外の部分を除去した後,冷水を用いてよくぬめりや汚れを洗い流す.洗浄後,重量でミョウバン1 に対して食塩 2 の混合物をクラゲによくまぶす.ただし,ミョウバンと食塩の比率についても人により様々である.この混合物をク ラゲにまぶすことにより,クラゲが含む多量の水分が脱水されるとともに,クラゲの身が固まる.ミョウバンはタンパ ク質を固める効果があり,他の水産加工品では板ウニの製造にも用いられる.
 ミョウバンと食塩の混合物をまぶしたクラゲを樽に入れ,これに重石をする.1 日で驚くほどの量の水がクラゲから排 出される.そもそもクラゲはその90 %以上が水分であり,最大でも80 %しか水分を含まない魚の筋肉とは異なる.一 方,タンパク質においては魚肉が約20 %であるのに対してクラゲは5 %しか含まない.クラゲの加工品として,たとえ ば缶詰や練り製品,あるいは一夜干しといった,魚では定番の加工品が無く,塩くらげ以外に用途が無い理由は,これ が高水分・低タンパク質・低脂質であるからである.また,水分の多いクラゲにおいては塩くらげの加工歩留は約5 % と非常に低く,100 kg の原料から5 kg の塩くらげしか得られないのである.
 クラゲを1 ヶ月樽で保存した後,冷水で再び丁寧に洗浄し,これを再びミョウバンと食塩の混合物にまぶす.ここま で処理したものは数年食用可能である.食べる時は,十分に水で晒し,湯通しする.
 時々私も中華料理店に行くことがあり,中華料理店の定番で前菜として中華くらげが出るが,たまに渋いものがある. 私のある友人は「中華くらげは渋い」と言ってこれを好まないが,クラゲはそもそも渋みを有さない.渋い原因は加工 された後の塩くらげを調理する際,十分にミョウバンを水で晒していないからである.また,板ウニでたまに渋いもの があるが,これもミョウバンが原因である.
 先にも書いた有明海でのビゼンクラゲとは別に,近年エチゼンクラゲが大量発生して社会問題となったが,これを有 効に活用する方法の一つとしての塩くらげの加工は非常に簡単である.桶以外の設備投資は必要無く,また,ほぼすべ ての水産加工品の製造に必要な,冷蔵庫や冷凍庫さえ必要無いのである.さらに,最近は外国,とくに経済発展が著し い中国からの需要が多く,エチゼンクラゲを原料としたものではないが,これを日本から輸出しているようである.
 
 文献
 1) 内藤剛:「全国水産加工品総覧」(福田裕,山澤正勝,岡崎惠美子監修),pp. 135-136,光琳,東京(2005)

「最近気になる用語」
学会誌「冷凍」への掲載巻号一覧表